考察 問題多いマイナンバー制度 迫る番号通知(上)  PDF

考察 問題多いマイナンバー制度 迫る番号通知(上)

副理事長 鈴木 卓

 いよいよこの10月から各人に対するマイナンバー法の個人番号通知が順次実施されるという。協会はこの法律が行政効率化や経費削減の名目の下、成長戦略の一環として企業や金融資本の個人情報利活用を最終目的としていること、個人情報を紐付け・一元管理することで国民の収入・財産や個人そのものの国家管理を強める道具にされるとして反対してきた。そして現状では地方自治体でのシステム整備や特定個人情報保護評価対応が遅れ、とにかく間に合わせることのみが優先されて、ハード(外国製ICチップ等の部品)やソフト(トロイの木馬型ウイルス)の外部からの侵入口(バックドア)を内包した、不完全で漏洩・侵入容易なセキュリティー・ホールだらけの極めて脆弱な、また反社会勢力が介入可能な情報連携システムになってしまう恐れが強い。

 個人情報漏洩の最大の弱点が、法律の附則という姑息な手段で盛り込まれたマイナポータル制度である。現行案通りだと本人の同意なく各人の諸情報や通知文書が個人の特定情報函に数十年に渡って貯められ続ける(電子私書箱が内包されたイメージが示されている)、非常に危険なものになる。マイナポータル開設には大原則として本人同意を要す、または貯められる情報を本人が取捨選択できるオプトイン/アウトの設定が必須要件である。この仕組みがない場合には欧州で実効し出した基本原則「忘れられる権利」の行使を辞さない取り組みが必要と考える。

 医療分野では個人の機微性の高い情報を扱うため以前より別番号制度が提唱されていた。この間政府は何とか医療情報もマイナンバーに取り込もうとしたが、結局断念し別番号を容認した(閣議決定「日本再興戦略2015」)。これでは医療情報の民間利活用が困難になるという彼らなりの危機感と焦りから、医療番号制度が整う前に5年間の集中取組期間を設定し医療情報を収集・管理し民間事業者の新サービス創出のための「代理機関(仮)」構想等の“医療等分野におけるICT化を徹底的に推進すること”を打ち出した(同上閣議決定)。

 医療情報はかくも儲かりのネタとして狙われ続けている。医療IT化のメリットが本当に発揮されるのは医療連携と遠隔医療だけであり、そのための情報共有範囲は二次医療圏、せいぜい都道府県内である。その範囲に独自に通用する番号を用いれば用は足る。わざわざ全国共通番号にする必要はないし、費用対効果・漏洩リスク対効果も上がらない。それ以外の目的は実はメリットに乏しい。医療番号制度はもっと精緻な検討が必要である。

ページの先頭へ