続記者の視点22/「強さ」か「やさしさ」か  PDF

続記者の視点22

「強さ」か「やさしさ」か

 たくさんの政党が入り乱れて、わけがわからない。そんな印象を今回の総選挙に抱く人は多いだろう。

 消費税、TPP(環太平洋経済連携協定)、原発、外交といった、いくつもの対立軸があり、その組み合わせで政党が分かれているように映る。しかも小選挙区制のせいで、考え方の違う政治家が大政党の中に混在する、多数派を獲得するために人気取りの主張をするといった現象が加わり、よけいにわかりにくい。

 だが長い目で見ると、社会構造の変化に伴って民意と政治勢力が分化し、再び整理されてゆく過程の混乱ではなかろうか。底流に目をこらせば、大まかな対立軸が浮かび上がってくる。

 ひらたく表現すると、「強さ」と「やさしさ」のどちらの方向をめざすかである。いちばんの分かれ目は社会経済政策にある。

 この十数年、日本の経済・社会が直面している困難はどういうものか。主に三つの側面がある。[1]製造業の国際競争力が新興国に押されて低下し、ポスト工業化社会へ移行する中で、次の産業があまり育っていないという側面[2]貧富の格差の拡大と労働分配率の低下によって消費需要が縮み、デフレが続いているという側面[3]少子高齢化の進行と人口減少という側面。

 どう打開するか。

 強さ派は、規制緩和と競争強化で新産業を創り、輸出を中心に経済成長を図ろうとする。企業の競争力を重視し、自助を強調して、社会保障を抑制する。

 やさしさ派は、格差の是正を図り、社会保障を重視する。国際競争より、再分配による内需拡大を中心にして成熟経済をめざす。

 両派の違いは、雇用の規制を緩和するか強化するか、税制で大企業や富裕層を有利にするか所得の再分配を強めるか、最低生活保障を抑制するか整備するか、などに顕著に表れる。

 注目すべきは、この対立軸が、外交や原子力政策にも連動しつつあることだ。

 強さ派は、格差に伴う不満を抑えるため、近隣諸国に強硬姿勢をとり、教育などの国内統制を強める。原子力は当面の電力コスト重視か、事故のリスク重視かに意見が分かれていたが、コスト重視に傾いている。

 やさしさ派は、近隣諸国との協調を図り、国内では意見の多様性を尊重する。原子力は国土をおびやかすので撤退をめざす。

 自民、維新は国家主義を加えた「強さ派」である。みんなも社会経済政策を見る限り、強さ派だ。民主、公明はあいまいで、最近の政策は「強さ派」に近かったが、選挙対策や政権の枠組みをにらんで揺れ動いている。未来、共産、社民などは「やさしさ派」で、都知事選での共闘に同じ方向性がうかがえる。ただし未来の党の社会経済政策は今ひとつはっきりしていない。

 かつての「自由主義+保守主義」VS「社民主義」という右と左の対立構図は終わり、「新自由主義+国家主義」VS「穏健保守主義+社民主義」に変わりつつある。

 争点は、マスメディアが異様に強調する「第三極」がどうなるかではない。日本の社会づくりの構想力が問われている。

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