続・記者の視点(61)  PDF

続・記者の視点(61)

社会保障と税制を問おう

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

 参院選は最終盤である。

 自民党は、経済を前面に押し出している。金融緩和による円安・株高は、英国のEU離脱ショックで崩れている。エンジンをふかすという成長戦略がどこにあるのか、いまだによくわからない。それでも首相はポスターで「この道を。力強く、前へ」と自信をみなぎらせ、有効求人倍率の上昇、企業の利益増、来日外国人増加などを実績として強調してきた。

 加えて「1億総活躍」と銘打った社会政策である。子育て、介護のほか、同一労働同一賃金、最低賃金の引き上げなど、もともと野党側の看板だった労働分野の改善策まで奪い取って掲げた。右派政権でありながら、予想外にリベラルな社会政策である。

 公明党のスローガンは「希望が、ゆきわたる国へ」というもので、格差社会を意識している。重点政策では景気、保育、若者、教育など、やはり経済・社会に力点を置く。

 実質与党に近いおおさか維新の会は「身を切る改革」と憲法改正による大学までの教育無償化を主張する。教育無償化は憲法をさわらなくても法律を作ればよいし、財源はどうするのかと思うが、そこがポピュリズム政党である。

 野党の側はどうだろう。

 民進党のポスターは「国民と進む。」という抽象的なものと「まず、2/3を取らせないこと」「人からはじまる経済再生」。改憲阻止、経済政策の転換が重点だが、政策は総花的で、何をやりたいのか明確に伝わって来ない。

 共産党は「力あわせ、未来ひらく」と、野党共闘を強調している。重点政策は、安保法制廃止・立憲主義、格差是正・税制改革、TPP反対の順に並んでいる。

 野党側はヘタだなあ、と筆者は感じている。

 マスメディアの多くは公示段階から、改憲勢力が3分の2を占めるかどうかが焦点だと伝えてきた。その点が重要であることは確かだ。安保法制反対、立憲主義を取り戻せという点から野党共闘が出発したいきさつもある。自民党などは、3分の2を取れば改憲に動き出すだろう。

 とはいえ、安保や憲法を第一に掲げるのが野党の選挙戦略として適切だったか。まだ形の見えない改憲への不安で票を集めるのは限界がある。

 たいていの世論調査で有権者の関心が高いのは「社会保障」「経済」だ。特別な事情のある時を除いて、わかりやすい生活課題で勝負するのが選挙の定石である。

 野党側の弱点は、アピールの内容が「守り」である点にもある。守りで訴えるなら、今回の論戦で後景に沈んでいる年金、介護保険、医療といった社会保障の負担増・給付抑制を重視すべきだろう。とりわけ年金積立金の株式市場投入による損失は大きい。高齢者の支持も大切である。

 もちろん財源確保は重要課題になる。与党が消費増税を先送りしたなら、富裕層や大企業への課税、金融取引への課税強化を強力に打ち出すべきで、この点は民進党の腰がいまいち定まっていない。

 できたばかりの野党共闘が未熟という事情はあるが、選挙結果によって、社会保障がさらに揺らぐことが心配だ。

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