続・記者の視点(56)  PDF

続・記者の視点(56)

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

報道の気骨が試されている

 マスメディアをめぐって、気になる動きが続いている。時系列でたどってみる。

 2014年1月、NHK会長に籾井勝人氏が選出され、「政府が右と言っているのに我々が左と言うわけにはいかない」などと語った。

 14年11月の衆院解散後、自民党は在京テレビ各社に選挙報道の公平中立などを求める要請書を届けた。さらにテレビ朝日には「報道ステーション」の放送内容に問題があるとして要請書を出した。

 15年4月、自民党の情報通信戦略調査会がテレビ朝日とNHKの幹部を呼び、個別番組の問題について異例の事情聴取をした。

 15年6月、自民党の若手議員勉強会で作家の百田尚樹氏が「沖縄の二つの新聞社はつぶさなあかん」と発言。議員から「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番。経団連に働きかけてほしい」などの意見が出た。

 TBS「NEWS23」で岸井成格氏が安保法案に反対のコメントをしたことが「公平公正でなく、放送法に違反する」として15年11月、右派を中心とする団体が大きな意見広告を読売、産経に出した。

 年末年始にはキャスターの交代が相次いで決まった。テレビ朝日「報道ステーション」の古舘伊知郎氏、NHK「クローズアップ現代」の国谷裕子氏が、いずれも3月末で降板する。

 報道統制の欲望が露骨に出たケースもあれば、真相のよくわからない人事もある。「国境なき記者団」による世界報道の自由度ランキングで15年、日本は61位まで下がった(最高は10年の11位)。

 放送は、周波数帯に限りのある電波を割り当てているので、放送法の適用を受ける。同法4条は放送番組に「政治的に公平である」「報道は事実をまげない」「意見が対立している問題はできるだけ多くの角度から論点を明らかにする」などを求めている。

 ただし1条は「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保する」、3条は「法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」としており、独立・自律を損なう権力からの圧力こそ問題である。

 新聞は、戦前と違って法律がなく、偏っていても違法でも何でもないが、全国紙は論調の二極化が進み、社説だけでなく報道記事の扱いや内容にも影響している。このため複数紙を併読しないと世の中の情勢はよくわからない。

 報道では、個々の論評以上に、「これが問題だ」と社会の議題を提示する役割が重要である。隠された事実を暴くスクープや独自の調査報道も含まれる。肝心なのは強者・権力を監視し、弱者・虐げられる者を助けることだ。社会を動かす意欲、権力にひるまない気骨が必要である。

 現実には、幹部が権力や世間に迎合する、権力側の物の見方をする、社員は幹部の顔色をうかがう、自主規制するといった傾向が強まった。企業内であらがうのは容易ではない。記者・ディレクターの横断的組織は乏しい。それでも風圧に耐えないと、民主主義の支柱が折れてしまう。

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