続・記者の視点(48)
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
社会保障は経済にプラスである
超高齢化・少子社会で社会保障の負担が大変だ、社会保障の支出をなるべく抑えないと日本経済が立ちゆかない——何となく、そんなふうに思わされていないだろうか。
財政支出と経済をごっちゃにするのは間違っていると思う。むしろ社会保障をしっかりさせることが経済にプラスになる、と強調したい。
近年は、とりわけ高齢者への年金・医療・介護を、社会のお荷物のように見る風潮がある。けれども、たとえば仮にある日、高齢者が一斉に消えたら、どうなるだろう。あるいは生活保護制度を急に廃止したらどうなるだろう。
商店もスーパーも閑古鳥が鳴き、医療機関や介護事業所はバタバタとつぶれる。消費はドンと落ち込み、失業者とホームレスがあふれて、とうてい経済は成り立たない。
収入の少ない人々への所得保障や手当の給付は、ほとんどが生活のための消費支出に回る。それは商品やサービスを売る産業に雇用や利益をもたらし、それなりの税収や保険料になって戻ってくる。医療・介護も、保険制度で受けやすくすることで医療・介護産業の雇用を生んでいる。
だから社会保障や福祉は、実体経済を支える大きな支柱の一つになっている。税と保険料で所得を再分配することによって、商品やサービスを買えなかった人々が買えるようになる効果は大きい。
財政支出が大きくても、回り回って税収になることを考えれば、実質的な財政負担は見かけほど巨大ではない。
公的支出の社会的効用が大きいのは、人口の増加や労働力の質の向上につながる子ども・教育分野だが、高齢者や低所得者への支援も、経済にプラスになるのだ。
日本では長年、社会保障の給付減、自己負担増が繰り返されてきた。社会保障が不備で老後の生活への不安、病気や介護への不安が大きいと、人々が消費支出を減らして貯蓄率を高めるという面でも、経済にマイナスに作用する。
社会保障の締め付けは、日本経済が20年間停滞した要因の一つではないか。
経済にとっても財政にとっても問題なのは、お金をため込み、消費に回さないことである。収入や資産の多い人ほど、ためこむ割合が高い。その多くは金融資産として保有・投資される。その資金が現実の事業への投資に回るならまだしも、株などの金融市場が膨らむばかりでは結局、ため込まれている。
企業の場合、もうけを労働者に配分するか、国内の設備や事業に充てれば、消費や雇用につながる。しかし内部留保を増やしたり、海外に投資したりすると、個々の企業としては合理的でも、国全体の経済にはマイナスになる。
社会保障でも、余裕のある人への過剰な給付、事業者の過剰な利益は、ためこみを生むので削るべきである。
しかし、生活を支えるレベルの社会保障は充実させる。必要な財政支出のために財源を確保する。経済にブレーキをかける消費税ではなく、高額所得者、もうけている企業、ため込まれた資産から吸い上げるのが合理的である。