続 記者の視点(47)  PDF

続 記者の視点(47)

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

事後対応の誠実さが明暗を分ける

 十数年来の課題だった医療事故の調査制度が今年10月から施行される。本来なら素直に喜びたいところだが、院内調査方式のうえ、具体的な進め方が医療機関の判断にゆだねられる点が多い。医療機関の対応によっては、遺族の不信を招き、紛争・訴訟・刑事告訴が増えるだろう。
 厚労省が昨秋から開いた制度の施行に向けた検討会では意見の対立が大きく、とりまとめが難航した。日本医療法人協会の医療事故調ガイドライン(以下、医法協GLという)の作成にかかわった医師・弁護士やその支持者が委員に多数任命される一方、以前の検討会や研究班で中心的な存在だった人たちが委員から外されるという不可解ないきさつが紛糾の背景にあった。
 筆者から見ると、医法協GLは徹頭徹尾、医療側の都合を優先させ、遺族をないがしろにする内容である。
 責任追及につながる可能性があると関係者が本当のことを言わない、すると真相がわからず、医療安全に役立たないというのが医法協GLの論法だが、中身を読むと、あらゆる責任を免れたいという思惑、事故調査なんか面倒だという意識がにじみ出ている。
 京都府保険医協会が、その偏りを見抜けず、GLに賛同したことにはがっかりした。
 新制度による報告・調査の対象は「医療に起因するか、起因すると疑われる死亡・死産で、医療機関の管理者が予期しなかったもの」である。
 医法協GLは「誤薬などの単純エラーはよくあることだから、予期できたものにあたり、報告・調査しなくてよい」と主張したが、さすがにそんな暴論は通らなかった。
 再発防止策について医法協GLは「責任追及に使われるおそれがあるから、報告書に書くべきでない」と主張。検討会の最終とりまとめは「再発防止策の検討を行った場合は記載する」となった。
 最後までもめたのは遺族への説明だ。医法協GLは「刑事、民事、行政責任の追及に使われるとよくないので、調査報告書は遺族に渡さない」と主張。とりまとめは「遺族への説明は、口頭又は書面若しくはその双方の適切な方法により行う」「遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない」となった。
 いずれもあいまいな規定である。遺族からヒアリングをするかどうかや、調査への第三者委員の参加についても明確な定めは行われない。医療機関しだいである。
 群馬大病院のような「暴走」を別にすると、遺族が何よりも怒るのは、事後対応の不誠実である。ミスがあった場合でも、誠実な調査、誠実な説明、誠実な改善策の提示がなされれば、強い怒りには発展しないものだ。
 逆に、遺族の話を聞かずに内部の人間だけで調査が進められ、報告書はもらえない、改善の方策も示されない、では不信と怒りが燃えさかる。
 他の業界で「責任を問われるなら最低限のことしか説明しません」という態度が通用するだろうか。患者・遺族に対して隠す自由、ウソをつく権利はない。医療機関は一部のグループに惑わされず、プロとしてどう対応するべきか、よく考えてほしい。

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