続 記者の視点(31)
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
次世代育成を妨げる教育費負担
近ごろは子どもが3人いると子だくさんのようにみられたりする。けれども簡単な数学で考えれば、子ども3人以上の世帯の数が、一人っ子世帯の数を大幅に上回らないと人口は減る。子どものいない世帯や未婚者も多いからだ。
日本の合計特殊出生率(15〜49歳の女性1人あたりの出生数)は昨年、1・41だった。2を少し超えないと人口は先細る。それは社会保障の世代間の助け合いを難しくするだけでなく、社会の活力・発展可能性をそいでしまう。
少子化対策が大きな課題であることは20年以上前から強調されてきた。要因としては晩婚化、若い世代の収入の少なさ、働く女性が妊娠・出産した場合の雇用・労働面の不利などがよく挙げられる。
対策として政府は、保育所の増設、放課後児童対策、ワークライフバランスの改善などを掲げている。だが肝心な問題が抜け落ちている。
子どもを育てるには、労力に加え、お金がかかるのだ。
労力で言えば、子ども2人までと、3人以上では生活への影響が大きく違う。一方、経済的支援制度にはたいてい所得制限があり、子どもの数をあまり考慮していない。
昨年度からの新児童手当は3歳未満が1万5000円、3歳〜中学生は月1万円(小学生までの3人目以降は1万5000円)という低い水準。15歳以下は税金の扶養控除(年38万円)がなくなっており、実質支援は大幅に縮小されている。
以前の「子ども手当」と違い、所得が基準を超えると月5000円だけ。所得の線引きは扶養家族が1人増えるごとに38万円上がるが、子ども1人に月3万円余りで足りるだろうか。衣食住だけでなく習い事や塾の費用もかさむ。
子育て支援策が小中学生までしか対象にしていないのも疑問だ。本当に大変なのは高校から大学の教育費である。
今や、大学まで行くのは普通のこと。高卒ではろくな就職がない。ところが学費は高騰を続け、国立大でも今年度の入学金は28万余円、授業料は年53万余円。私立なら倍以上のことも多い。生活費を含めると卒業までに500万〜1000万円もかかる。日本学生支援機構の奨学金は貸与方式で、借金にすぎない。
教育機関に対する公的支出のGDP(国内総生産)比はOECD(経済協力開発機構)加盟国中、日本が最低(2010年)。高等教育で私費負担の割合が66%と高い。
民主党時代の政府は昨年9月、国際人権規約A規約13条の一部留保を撤回し、中等教育・高等教育の無償化の漸進的導入を表明したが、財務省の壁は厚い。文科省は大学の奨学金制度を来年度から少し改善する代わりに、高校授業料の無償化に所得制限をつける方針だという。省内の予算枠のやりくりにすぎない。
現状では子どもの数が多いほど家計が圧迫される。そうではなく、子どもが多いほど経済的に得をする仕組みを思い切って作らなければ、少子化を脱却できないだろう。それは社会の未来への投資だ。