続 記者の視点(30)
読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平
社会保障制度改革に「対案」を
どこが社会保障の充実なのだろう。消費税率の引き上げによって生まれる税収は、どこへ行くのだろう。
政府の社会保障制度改革国民会議が8月6日に最終報告書を提出し、それに沿った制度変更の手順を定める「プログラム法案」の骨子が21日に閣議決定された。
税と社会保険料の負担に理解を得るために「徹底した重点化・効率化を行う」として、医療・介護・年金の分野で、負担増と給付抑制のメニューをずらりと並べている。
国民会議の報告書は、財務官僚の作文を読まされているようだ。思考の誘導が巧妙にちりばめられている。
「自助・共助・公助」の説明では、共助にあたる社会保険方式を「自助を共同化した仕組みである」と述べ、公助は「自助・共助を補完するという位置づけ」だとする。
「社会保障関係費が増大する中で、それに見合った税負担がなされておらず、不足分を赤字国債で補っている構造は、消費増税後も解消されない」「社会保険への税投入は所得格差の調整を含め、国民の負担の適正化に充てることを基本とすべき」という。
憲法25条が生存権保障と社会福祉・社会保障の向上に努力する国の義務を定めているのに、そういう考え方でよいのか、批判精神を要する。
ただ、超高齢化社会に対応した社会保障システムの手直しは必要だ。報告書のうち、▽年齢別の負担から、能力に応じた負担へのシフト▽子育てや現役世代への支援の強化▽地域中心の医療・介護への転換――といった方向は間違っていないと思う。
その意味で、▽国民健康保険料の限度額を上げ、低所得層の保険料を軽減する▽高額療養費の負担限度額を見直し、中低所得層の限度額を細かく設定する――などは妥当だろう。医療費の窓口負担についても、低所得者の負担割合の軽減を導入すべきだ。
問題は、費用の抑制を前提とした制度いじりが中心で、他の領域を視野に入れた政策の構想を欠いていることだ。
高齢者の年金を抑えたら結局、生活保護でカバーせざるをえない。非正規雇用の社会保険加入を広げるというが、そもそも非正規を増やした雇用労働政策はどうするのか。子育て支援では、大学を含めた教育費負担の重さを無視してよいのか。住宅を社会保障に組み込むべきではないか。
医療・介護については、抑制するより、それなりに発展させて労働条件や待遇を改善し、雇用を生み出すという道があるのではなかろうか。
社会保障には税財源をもっと投入してもよい。もともとそれが一連の改革の表看板だったはずだ。富裕層の金融資産や企業の内部留保への課税も真剣に考えるべきだろう。
今回の改革案に対抗して運動する側にも要望がある。各論の「反対」ばかりでは限界がある。アメをもらうことだけを喜び、あらゆる負担増を嫌がるほど、国民は単純ではない。問題の所在を明らかにするために、説得力のある対案を示す作業が求められる。