続 記者の視点14/金持ちに応分の負担を  PDF

続 記者の視点14

金持ちに応分の負担を

読売新聞大阪本社編集委員 原 昌平

 年金、医療、介護などの社会保障費はどんどん増えてゆく。それを抑えたら国民の安心が失われる。

 一方、政府の税収は少なく、借金が膨らみすぎていて、このままでは社会保障制度を支えられなくなるのも確かなようだ。公共事業など歳出のムダの削減はやるべきだが、いくらでもひねり出せると見るのは幻想だろう。「埋蔵金」と呼ばれる特別会計の流用や政府保有株の売却も、一時的な収入にとどまる。

 では、どこに財源を求めるか。消費税しかないように宣伝されているが、物やサービスの購入という実体経済の根幹に課税する消費税のアップは、経済を確実に冷やす。税率を5%から10%に上げても、年間10兆円ほどの消費税収が倍増することにはならない。景気を低迷させて他の税収が減るおそれもある。低所得者ほど負担率が高くなる逆進性の問題もある。

 そもそも「税と社会保障」の望ましい姿は何だろう。能力に応じた負担と、必要に応じた給付ではないか。

 であれば、まずは十分に余裕のある金持ちに、応分の負担をしてもらおう(法人税の議論は今回、横に置く)。

 政府の一体改革大綱は、2015年からの所得税の最高税率アップ(40%→45%)、相続税の最高税率アップ(50%→55%)を盛り込んだが、ともに小幅で、1980年代から下げ続けたのを、ほんの少し戻す程度にすぎない。株式譲渡益、配当などの分離軽減課税方式もそのままだ。

 それらの引き上げに加えて、資産課税を導入すべきではないか。固定資産以外は税金がかかっていない。

 なにも1400兆円とされる個人金融資産すべてに課税しなくてよい。野村総研の推計によると、2007年時点の個人の純金融資産(負債を差し引いた額)は、5億円以上の超富裕層が6・1万世帯、65兆円。1億円以上の富裕層が84・2万世帯、189兆円。数では1・8%の世帯が、総額の22%を握っている。

 ソフトバンク孫正義氏81億ドル 、ユニクロ柳井正氏76億ドル(フォーブス誌、2011年)といった上位25人の大富豪だけで純資産は計6兆円を超えている。

 世界同時不況後の目減りを考慮しても、純金融資産1億円以上の世帯に1~3%の課税をするだけで年間3兆円以上になる。その程度の税率で金持ちが海外へ逃げ出すことはない。

 かつて「富裕税」という資産課税があった。税制の民主化を求めたシャウプ勧告に従い、戦後の1950年から3年間施行されたが、財産の評価や把握に手間とコストがかかるという理由で廃止された。

 確かに技術的な課題はあるが、消費税増税にあわせて逆進性を緩和するために「給付付き税額控除」をするのも手間はかかる。貧乏人の所得を調べるのと、金持ちの資産を調べるのと、どちらが効率的だろう。

 社会保険制度も見直そう。厚生年金保険料は標準報酬月額62万円、健康保険料・介護保険料は月額121万円が保険料算定の上限になっている。それより収入が多くても保険料は変わらないという仕組みを改めれば、保険財政の改善に役立つ。

 けっして金持ちに重税を課そうというわけではない。軽すぎる負担を応分にするだけだ。経済への悪影響がないし、開きすぎた格差の是正にもなる。

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