第650回記念 社会保険研究会開く  PDF

第650回記念 社会保険研究会開く

医療制度改革で遠藤久夫氏が講演

 協会は第650回記念社会保険研究会を10月19日、京都大学医学部記念講堂にて開催した。2012年医療介護同時改定より医療・介護の機能分化が大きなテーマとなり、2025年に向けて再編を進めることが目標となっている。そこで、「医療制度改革のゆくえ―2025年の医療制度の姿を展望する」をテーマに、学習院大学経済学部長の遠藤久夫氏を招いて開催。中医協会長や社会保障制度改革国民会議会長代理等を歴任し、現在も社会保障審議会医療保険部会長をはじめとして多数の政府審議会委員を務める同氏が、これからの医療保険制度と医療提供体制のあり方を語った。

 遠藤氏の講演に続いて、渡邉副理事長が「現場医療者からの意見―国民会議報告書を読んで考えたこと―」と題して、政府の社会保障制度改革に対する協会の考え、目指すべき社会保障制度について解説。今こそ、新自由主義改革と訣別し、社会保障ですべての人たちが幸せになれる新しい福祉国家を希求すべきだと訴えた。

社会保険研究会 第650回記念講演 要旨

高齢社会への対応

 医療制度改革とは、いくつかの制約条件の中で今後の医療ニーズにどう対応するのかということ。2025年は団塊の世代が全員75歳以上になるという意味で重要視されている。増加する医療費の負担と給付のあり方については、医療保険制度改革として議論がなされており、増加する医療(介護)ニーズへの対応については、医療提供体制の改革として議論がなされている。

医療制度改革の課題

 医療費の伸びは、実は国民所得との相関関係が高く、結果的にこれまではいわゆるキャップ制を行わなくても経済成長率と大きく乖離はしていなかった。一方で近年は、公費割合の高い高齢者医療費の増加や、低成長で保険料収入が伸び悩む国保、協会けんぽへの公費投入増によって、国民医療費に占める公費の割合が増加。公費のうち4割は赤字公債で賄われており、公費割合が増えるほど財政再建との関係が議論の的となってくる。

 国民医療費に占める社会保険料の割合は低下しているが、人口構造の変化に伴って現役世代の実質的負担は増加している。保険料率の増加には雇用者側も敏感であり、今後負担を増やし続けることは容易ではない。

 また、医療費コントロールに最も影響力があるのが診療報酬改定率である。経済成長が鈍化して医療費の伸びとの乖離が生ずると、マイナス改定により医療費の伸びと成長率とのギャップを埋めてきた。しかし、医療は労働集約的事業で人件費圧縮が難しい。また、基本的にオーダーメードであり、合理化によるコスト削減も難しい。マイナス改定が行われると医業収益は悪化し、ひいては医療提供体制への悪影響も懸念されるため、慎重な対応が求められる。

 では、どの方向で改革すべきか大変難しい問題であるが、どうにか隘路を見つけながら進むほかない。

医療提供体制の改革

 医療提供体制改革の絵姿はすでに書かれており、福田内閣時の社会保障国民会議、菅内閣時の社会保障・税一体改革成案から引き続いて言われていることがベースとなっている。それは、高齢者の増加に伴う医療ニーズの増大に病床を増やさずに対応。それを、病床機能の分化と連携の推進、平均在院日数の短縮による病床稼働率の向上、在宅医療の推進(地域包括ケア)によって達成しようという考え方。しかし、これまで多くの医療機関が7対1を志向してきたし、DPC対象病院に名乗りをあげてきた。この急性期の魅力の呪縛からどのように解き放つのかは大きな課題である。

 そして、マンパワーの拡大は介護職、看護職、医師の順で、医師はあまり増やさないとされる。しかし、好況不況に関わらず介護職の有効求人倍率は高止まりしており、医療職の偏在(地域偏在、診療科偏在、働き方偏在(7対1と訪問看護))も解決が難しい問題である。

 また、診療報酬とは別に医療法改正で機能分化を行う動きもある。実は現状でも機能分化は診療報酬政策で相当に進んでいる。一方で、それが地域の状況に即した内容であるか否かについては考慮されないため、その点からは医療法上の機能分化の推進には意義がある。しかし、単なる手上げ方式では意味がないのであり、何でもって機能を区分するのかを決めなければならないが、現行の医療機能情報提供制度との重複など、考慮すべき課題がある。

国民会議報告書の特徴

 社会保障制度改革国民会議報告書で書かれていることは基本的にはこれまで議論されてきたことで、あまり一つひとつの文言にこだわる必要はないと思っている。一つの特徴は、都道府県の役割を重視している点である。国保保険者を都道府県に移行することと、医療提供体制についても都道府県の役割を拡大するとされているが、前者では国保の財政問題の緩和が、後者では民間主体の医療提供体制の中での権限のあり方が課題となろう。

最後に

 2025年まではあと12年であるが、アクセルを踏みすぎると過去の診療報酬改定で起こったように、患者の利益を損なうことになる。弱いと25年を過ぎてしまう。その匙加減も重要となろう。(グリーンペーパーに抄録を掲載予定)

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