第34回小児科診療内容向上会レポート
小児の機能性消化管障害/その治療の実際について
第34回小児科診療内容向上会を京都小児科医会、アステラス製薬株式会社、協会の共催で4月4日開催、70人が参加した。京都小児科医会理事で京都府国民健康保険団体連合会審査委員の川勝秀一氏が「保険請求の留意事項と最近の審査事情」を、昭和伊南総合病院消化器病センター小児科主任医長の中山佳子氏が「小児の機能性消化管障害について」を講演した。
70人が参加した小児科診療内容向上会
「小児の機能性消化管障害」は、いわゆる慢性腹痛や反復性腹痛の原因のひとつですが、いつもその診断には苦慮します。小児の器質的消化器疾患は稀で、かつ内視鏡など侵襲のかかる検査が容易にできないため、腹部症状が続く時は内科の消化器専門医に紹介してしまうのが現状でした。このため小児科では、長い間ブラックボックスとして研究が進まなかった領域といえます。中山佳子先生は、このような腹痛で苦しんでいる子ども達に接し、的確な診断と治療をすべく9年前からご自身が内視鏡検査を勉強され、小児消化器専門医として診療に携わってこられました。
「機能性消化管障害(Functional gastrointestinal disorders:FGID)」とは嘔吐、腹痛、便秘、下痢などの消化器症状を慢性的に繰り返し、症状を説明する器質的疾患を認めない症例を集めた症候群の総称で、1998年に疾患概念が提唱され、06年現在のRome3分類に改訂されています。今回先生には、この中のH2a.機能性ディスペプシア(FD)を中心として文献的知見にご自身の豊富な経験を加え、濃密でありながら分かり易いご講演をいただきました。なお分類、症状診断等は09年度小児科診療内容向上会の解説テキストをご参照下さい。
先生がこの5年間の間に経験された反復性腹痛小児200例の検討では、通常の血液検査、検尿、腹部超音波検査等で異常を認めたのはわずか2例(1%)のみでしたが、異常なしとした61例に胃カメラを施行したところ4分の1に症状の原因と考えられる十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、ヘリコバクタ・ピロリ(Hp)陽性胃炎、十二指腸炎の器質的疾患が発見され、残りの4分の3は胃カメラでも異常がなく、このグループを機能性ディスペプシア(FD)と診断しています。FDの確実な診断法はなく、器質的疾患の除外診断が唯一です。
FDは10歳以上の女児に多く、腹痛の持続期間が長いほど精神症状や頭痛・ODなどを伴いやすい、1年以上腹痛が持続する者はHp陽性例が多い(18%)そうです。器質的疾患による腹痛は、右上あるいは右下腹部が多く、指一本で指し示すことができる特徴があり、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性疾患の軽症例は白血球数やCRPなどの血液炎症反応では異常を示さないことが多く注意が必要です。小児に対する内視鏡検査の適応は、器質的疾患の警告兆候を認める、Hp陽性、FGIDとして治療しても症状が改善しない場合です。
FGIDの治療目標:一般に予後は良好で、腹痛関連消化管障害の70%が2年以内に症状が消失または改善しますが、成人期に症状を持ち越さない注意が必要です。対応として、(1)本人と家族への病態の説明と生命の保証、(2)食事は誘引となるものを避ける(牛乳、卵、刺激物など)、(3)薬物療法(対症療法)、(4)児童精神科への紹介、(5)ストレス環境の改善のための家族・学校との連携―が大切です。
保護者の過敏な心配は、子どもの病気を助長します。学校の先生、保護者、本人をうまく巻き込みながら子どもが腹痛(症状)とうまく付き合っていけるようにコーディネートしていくことが大切です。腹痛を心理的痛み、詐病、心理的な心の問題と片付けずに、明日からはFDと診断して患者としっかり付き合っていきましょう。腹痛の背景にはたくさんの因子が隠れており、そういった奥深い部分まで診てあげる、そして小児期早期の介入が子どもの将来にわたる生活の質をすばらしいものにできると信じている、中山先生の熱い語りが印象的でした。
(伏見・神谷康隆)