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私のすすめるBOOK

TPPと医療の産業化 二木立著、勁草書房

 2009年の政権交代は、小泉構造改革から顕著に推し進められた社会保障抑制路線に対する国民の反発の結果だった。

 特に「後期高齢者医療制度」は「年をとっていらんようになったら医者にもかかれんようになってほかされる」という分かりやすさが怒りを買った。

 民主党はマニフェストで社会保障の充実を掲げ、医療においては総医療費の増額、医師数の増加を約束し、大きな期待を集めて政権についたのだが結果はひどかった。「後期高齢者医療制度」廃止を早々と棚上げし、突然にTPP参加を言いだし、新成長戦略「ライフ・イノベーション」を提唱、医療の産業化を語り始めた。

 民主党もおかしいよ、と言い始めたところへ3・11の震災・津波・原発事故。3人目の野田首相が「税と社会保障の一体改革」と引き替えで解散総選挙。再び政権は自民党に戻ってアベノミクス。そして今、TPP参加が目の前に迫る展開に。

 2000年に介護保険が始まり医療の現場は確実に変わった。あの頃、医師会の介護保険担当になり、新制度導入の説明、医師の意見書の書き方など何度も会議を重ねた。多くの医師が新しい制度を勉強し、ケアマネ試験にも挑戦した。不安は大きかったが、介護保険を育てようという希望があった。

 いつの時代も「激動の」というのだろうが、この十数年の社会の動きは凄まじい。翻弄されながらもこの間ずっと、二木先生のご著書をガイドとしてきた。

 複眼的視点からの研究といつも強調されるように、重層的な資料を精力的に駆使して、実証的に展開される論理は明快かつ爽快、頼もしい限りである。

 第五章「いつでも、 どこでも、だれでも」の来歴を探る時のように、あんまりしつこすぎて付いて行くのがしんどくなるくらいだが、この妥協のなさこそが二木先生の真骨頂だと思う。並のリアリストには及びもつかない追求の激しさに、熱く燃えるヒューマニズム魂をみて脱帽するのです。同時代を生きる後輩として、先生のお叱りは私の誇りである。感謝しています。(西陣・垣田さち子)

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