私のすすめるBOOK/『消費増税亡国論』植草一秀著
民主政権変貌の検証に
消費増税亡国論
植草一秀著(飛鳥新社新書)
本体952円+税
新書本にしてはやや大きめの装丁と著者名を見て引けてしまう人がいるかもしれない。しかし、中身は真摯な直言に満ちている。前半は今回の消費税増税を廻る野田首相の言動の欺瞞を繰り返し糾弾している。ネット動画で話題となった2009年の野田氏の選挙演説「マニフェストに書いてないことは行わない」、「増税の前にシロアリ退治をやる」との公約を野田氏自らが全て反故にしたこと。特にシロアリ退治=官僚の天下り根絶で消費税約5%分が確保できるが全く放棄された、このままでは消費税増税分はシロアリに喰われるだけになるだろうとの著者の警告は瞠目に値する。
本書の最重要部は、国民の期待を背負って船出した民主党政権を転覆させる陰謀がマスコミや司法界を巻き込んで進行し、早くも菅政権で実現された舞台裏の暴露であり、全国民が知るべき内容である。特に「TPR」(注)による徹底したマスコミ工作には戦慄を覚える。思えば、大新聞の社説やテレビの解説者はこぞって「消費税増税やむなし」の論陣を張り、いったん法案が通ると掌を返すように「これでも税収は増えない」とか「やはり社会保障費削減が必要」と主張している、その裏にTPRがあると理解すれば合点がいく。また小沢一郎氏バッシングの裏に同様の暗黒勢力(米官業利権複合体)の意図を見、これと闘う論証にも説得力がある。
後半では緊縮財政・医療費削減強行の小泉内閣の4年半の間にアメリカ国債の購入・保有で53兆円もの損失を出していたことを明らかにし、これを上手に売却する具体的提案や、更に大局的な経済政策提言も示唆に富む。「おわりに」にある著者の具体的立場表明は言わずもがなの感を禁じ得ないが、著者も冤罪事件で闘っていることが言いたかったのだと理解したい。
福祉国家政策で支持を受けて成立した民主党政権が自民党張りの構造改革路線に変貌した過程の歴史的検証資料として、本書は是非おさえておくべき一冊となるであろう。
(注)TAXのPRという意で、政・財・学界、メディアに対する説得、あるいは検閲工作のことを指す。
(中京西部・鈴木 卓)