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どう生きるかへの熱い想いが

恋するお尻医者
恋するお尻医者
渡辺元治 著 2011年3月
かもがわ出版 1,400円+税

 また渡辺元治先生にお会いできた。と言っても両の足はついていない。彼の書き溜めた随想やさまざまな集会でのあいさつ、医学部時代の回想や、ご家族への想いなど、人間をこよなく愛して生き抜いた渡辺元治先生の遺稿集である。

 まず『恋する お尻医者』というそのネーミングと本の装丁に驚かされる。キューピッドが後ろ向きで小さなお尻をむけ先端にハートのついた弓矢を(隠し)持っている。一目見た途端に、これはまずいと感じてしまう。これまでのお付き合いの中で幾度も目じりが熱くなるような経験があったが、表紙を開く前からその予感がびんびんする本である。

 本を読み進めるうちに彼が関わってきた運動の大きさと深さに圧倒される。とともに、多くの人々との出会いに深く感動し、絶えず成長し続けてきた人間・渡辺元治の偉大さの片鱗に触れることになる。ある芸術家の言葉をおもいだす。「『感動』ってのはね、『落差』なんですよ、自分の生き方と他人の生き方、この落差に気づく、これが『感動』なんですよ」。

 どの章のどこから読んでも彼の生き方・人間を見る目の確かさが伝わってくる絶品の書といっても良い。これをまとめられた編集者たちのご苦労も大変であったと推測される。

 最終章はご家族からのごあいさつだが、その中に学生時代のご子息・賢治先生(現・協会理事)への思いをつづった日記が紹介されている。「核兵器のない世界」「健康で安心できる社会」を願っていた元治先生の想いが集約されているので紹介したい。

 「賢は一応勉強はがんばっているようだ。問題は将来、正義漢になってほしい。何が正しい、何が誤りか。その判断をする基準を何に求めるか。これを正しく身につけてほしい。正しく生きぬくことの難しさを感じながら、自分自身をきたえ、深めていく人間になってほしい。そのことが身についた学問を生きた学問にすることであるのだから」

(乙訓・津田光夫)

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