福島県立大野病院事件「無罪」判決確定で理事長談話

福島県立大野病院事件「無罪」判決確定で理事長談話

患者・医療者が納得する解決法の確立を

京都府保険医協会
理事長 関 浩

 福島県立大野病院の産婦人科医に対する刑法211条の業務上過失致死罪及び医師法21条「異状死体」の届出義務違反事件について、福島地裁の鈴木信行裁判長は8月20日、無罪を言い渡した(求刑禁固1年、罰金10万円)。判決後、検察側の対応を注目していたところであるが、福島地検は控訴を断念し、9月4日に無罪が確定した。医療関係者としてこの結果にひとまず安堵するとともに、亡くなられた患者とご遺族の方々に改めて哀悼の意を表するものである。

 しかしながら、この事件がわが国の医療界に与えた影響は余りにも大きい。マスコミ報道が先行し富岡署が逮捕し、地検が起訴した。これにより富岡署は福島県警本部長表彰まで受けた。フードで顔は隠されてはいたが手錠をかけられ警官に連行される加藤医師のテレビ映像は衝撃的なものだった。医師が誠心誠意自分の持つ技術と知識・体力を賭して最善を尽くしても、結果が悪ければこのように逮捕・起訴されるのかと医療界に激震が走り、そのためまず産科の現場からの離脱がはじまり、病医院産科の休止・閉院につながった。また全国で産婦人科志望者が減少した一因ともなった。同科だけにとどまらず、救急医療をはじめ、侵襲的治療や検査を行う分野でも、萎縮診療という黒雲が日本国中に広がった。

 元来医療には、様々な危険、予期せぬ経過や結果が伴うというある面避けられぬ要素を有する。重大な過失や悪意が存在しない医療に関して、結果のみをもって逮捕・起訴する事自体が不当なものなのである。福島県警のやり方に同県の警察医の方々はどのように感じられたのであろうか。警察の取調べを含み2年間の長きに亘り被告として筵に座らせられた同医師の苦悩はいかばかりであっただろうか。現在の医療崩壊の元凶になった福島県警、検察側の対応に対して強く抗議する。

 万能とは言えないまでも、政府が準備を進めている第三者機関「医療安全調査委員会」の役割に期待したい。きわめて悪質な行為を除き捜査に用いないことを条件に委員会に権限をもたせ、医療事故の原因を医学的、法律的に公平、中立の立場で究明、裁定するのである。患者・医療者が納得する解決法の確立を望んでやまない。

【京都保険医新聞第2656号_2008年9月15日_1面】

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