社保研レポート
第658回(5/28)在宅における緩和ケアの現状と今後〜課題と明日への一歩
講師:渡辺緩和ケア・在宅クリニック 院長 渡辺 剛氏
症例もとに早期からの緩和ケアの重要性訴える
今回は在宅を中心とした緩和ケアに関するお話であった。
冒頭まず、緩和ケアの定義が大きく広がってきたことや、川越厚先生の「ホスピスは建物ではなく哲学をいう」という言葉の紹介、多死社会に向けた在宅ホスピス緩和ケアの必要性、また診療報酬においても、在宅から緩和ケア病棟への紹介に対する評価の充実など、ホスピス緩和ケアの現状について概観した。
続いて、早期からの緩和ケアの重要性を症例を交えて解説。しかし現状としては、緩和ケアに対する意識は、なお「終末期のみが対象」「緩和ケア病棟のみで実施」などの回答率が高い。また、実際に紹介される患者のうち、抗がん治療を受けている患者は20%に過ぎない。一方で、治療早期(化学療法中)からの在宅ケアでは、求められる医療・ケアはより多様化し、質の高い在宅医療・訪問看護の確保が欠かせない。看取りの質に応じた点数改定もなされてきている。加えて、一般病棟によるサポートが在宅療養継続の鍵になることも触れられた。
そして、緩和ケアの中で重要な位置を占める、がんの痛みのコントロールについては、薬剤ごとの使用方法等を詳細に解説いただくなど、多くの分量を割いて解説された。
最後は看取りについて話された。看取りを行うケアチームの中心は医師ではなく訪問看護師とのこと。看取りのサポートでは、本人のみならず家族全体が死を穏やかに受け入れ迎えることへの支援が求められ、容易なことではないだろうが、看護師の支援が心安らかな看取りにつながった事例も紹介され、チームの努力が確実に成果につながっていた。
全体を通じて印象的だったことは、緩和ケアが行っていること、あるいは行おうとしていることは、緩和ケアという言葉から思い描くイメージよりもずっと広く、従来の医療行為という範疇を大きく超えるものとして存在していることであった。そして、誰しも避けることができない死に対して、このように緩和ケアが行っているアプローチは、緩和ケアを特に必要としない看取り全般にとっても、示唆するところが大きいのではないかと感じた。
その他、緩和ケアが予後の改善につながっているとの実証研究なども紹介されるなど、本講演の内容はより多彩で具体的なものとなっている。当日ご参加いただけなかった先生は是非保険医専用サイトの配信動画をご覧いただきたい。当日資料もPDFでダウンロードいただける。URLは本紙1面欄外に掲載している。