社保研レポート 問診と身体所見でどこまでわかるか
第649回(8/24) 総合診療的症例検討会
講師:洛和会音羽病院 総合診療科 医員 金森 真紀 氏
テレビをつけると、医療や健康を扱う番組が目白押しだ。NHKの「総合診療医ドクターG」は中でも異色の番組である。いつだったか、偶然この番組を初めて見たときには、医者以外にこのような特殊な番組を見るものがいるのだろうかとも思って見ていたが、不定期とはいえ番組が続いているところをみると案外視聴率を稼いでいるのかもしれない。
ドクターGと呼ばれる、有名病院の総合診療医などが出題者となって、優秀な研修医相手に、症例をドラマ化したものを見てもらい病名を絞り込んでいく内容は、まさに病院内でのケースカンファレンスそのものといえるもので、さながら名探偵が難解な事件の謎を解明し、犯人を追い詰めていくような緊張感もあり、医師が診断にたどり着く過程を一般の方にもある程度理解できるような内容となっている。症例検討会がテレビのエンターテインメントとして成立するとは思いもよらなかった。
今回はこのドクターGに出演された、洛和会音羽病院総合診療科の金森真紀氏をお招きして、総合診療的症例検討会を協会で再現してもらったが、やはり関心が高いのか多くの方に参加いただいた。
用意された症例は氏が実際に経験された高齢者の2例で、症例1はSLE、症例2はDLB(レビー小体型認知症)による偏食から発症したウェルニッケ脳症と脚気であり、我々開業医が日常的に遭遇しそうなものであった。症例ごとに、主訴、現病歴、身体所見が示され、参加者に質問しながら鑑別診断をしぼっていった。ここで繰り返し強調されるのは、病歴聴取と身体所見に重点をおき、検査前の診断正解率を上げていくということで、検査の診断に占める割合は1割前後まで減らすことができるともいう。このことから国は総合診療医を医療費削減の切り札として期待しており、また地方の医師不足の解消をも担うものとしてその育成を進めようとしている。
こういった思惑は別にしても、あまりにも専門性が進みすぎて、全人的にヒトを診るという医学の原点を忘れた結果として、総合診療医の必要性が叫ばれていると思えば、不十分とはいえ“何でも屋”としての町の総合診療医を自認する私にとって今回の症例検討会は、内科的診断能力の向上をめざすとの思いを強くした、知的な刺激を受けた貴重な時間であった。(理事・砺波博一)