社保研レポート/肝疾患の請求ポイントを解説

社保研レポート/肝疾患の請求ポイントを解説

第630回(10/15)「肝疾患診療における保険請求上の留意点」
講師:京都府国民健康保険診療報酬審査委員会委員、中島医院院長 中島悦郎 氏

 10月15日、第630回社会保険研究会を開催。講師を京都府国民健康保険診療報酬審査委員会委員、中島医院院長の中島悦郎氏にお願いし、「肝疾患診療における保険請求上の留意点」について解説いただいた。

A型肝炎

 生牡蠣など、生食する海産物に存在するA型肝炎ウイルスを経口感染して発症する。診断は、急性期に上昇するIgM型HA抗体で行うが、時期が早すぎると抗体が十分に上昇していないこともあるので、検体採取の時期が重要である。IgM型HA抗体からIgG型HA抗体にスイッチングすると、快復してきた証拠となる。(図1)

図1

B型急性肝炎

 血液を介して感染するが、輸血での感染はほとんどない。HBVキャリアからの性行為感染症や覚醒剤使用時の感染が多い。潜伏期間が1〜6カ月と長いので感染源が明確にならない場合も多い。日本ではHBVの遺伝子型Cが多く、沖縄や東北では一部、遺伝子型Bが存在する。B、C型は慢性化することはほとんどないが、都会で増えている欧米型の遺伝子型Aeの急性肝炎では5〜10%程度が慢性化する。B型急性肝炎の診断にはHBs抗原、HBs抗体、HBe抗原、HBe抗体、HBVDNA定量、IgM型HBc抗体を用いるが、IgM型HBc抗体の上昇が遅い場合は急性肝炎か慢性肝炎かの診断が困難な場合がある。劇症化は、プロトロンビン時間の経緯で鑑別する。回復後も肝臓内にはウイルスが残っている。(図2)

図2

C型急性肝炎

 血液を介して感染するが、黄疸が顕著でなく、自覚症状が軽度のこともあり、一般肝機能検査を行わないと見逃され、慢性化してから発見されることもある。発症直後はHCV抗体が陰性のことがあり、HCVRNA定量またはHCVコア抗原量を測定する必要がある。ほぼ70%が慢性化するので、急性で治癒するかどうかは経過を見なければわからない。(図3)

図3

B型慢性肝疾患

 診断にはHBc抗体、HBs抗原定性、精密、HBe抗原・抗体、HBVDNA定量をステージによって選ぶ。ウイルス量の変化ばかりでなく、ウイルス遺伝子上の変異が臨床症状や検査値の変化に密接に関与している。HBe抗原陽性の無症候性キャリア期、肝炎期、HBe抗体陽性の無症候性キャリア期、HBs抗体陽性の無症候性キャリア期、HBc抗体のみが陽性の無症候性キャリア期に分けて検査、診断を進める。(図4)

 HBs抗原定性反応だけで判断するのではなく、HBs抗原精密測定を行うべきである。

図4

 最近、癌化学療法を行った際に発症するB型肝炎が注目されている。HBs抗原がマイナスであれば、体の中にウイルスがいないと考えられていたが、HBc抗体が陽性、あるいはHBs抗体が陽性の患者は、ワクチンを投与してそういう状態になった人以外は、体の中にウイルスが潜在的にいると考えて対処したほうがよい。免疫抑制作用のある抗癌剤の治療は、体の中にいないと考えられたB型肝炎ウイルスが高率に再活性化し、劇症肝炎となる可能性もあるため注意が必要である。

(右京・玉井 仁)

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