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社保研レポート

甲状腺疾患を見逃すな!

第645回(7/28)ガイドラインと保険診療をふまえた「甲状腺疾患の診かた、考えかた」
講師:国立病院機構 京都医療センター 診療部長
社会保険診療報酬支払基金京都支部 審査委員 田上哲也 氏

 7月28日午後、国立病院機構京都医療センター診療部長の田上哲也先生による講演が開催された。田上先生は日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員・代議員であり、日本甲状腺学会の専門医・評議員・学会ホームページ作成委員である。

 本講座のねらいは以下の4点である。第1に甲状腺機能亢進症や低下症の症状は不定愁訴に近いものが多く、甲状腺疾患を疑わなければ見逃してしまう可能性が低くないこと。そのため原因がわからず長年放置されていたり、他の疾患に間違われて治療されていたりする。第2に一般血液検査の項目には甲状腺ホルモンは含まれていないけれども、甲状腺機能異常を疑うヒントが隠されていることが少なくないこと。第3に甲状腺ホルモンを測定しさえすれば一目瞭然になること。第4に甲状腺疾患の頻度はおよそ15人に1人と意外に高く一般外来で遭遇するのは必至であること。

 病態としては次の3点をふまえておけばよい。

 第1に機能亢進症。第2に機能低下症。第3に腫瘍。機能亢進症と機能低下症の診断には甲状腺ホルモン測定が行われる。検査項目は甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離サイロキシン(FT4)が第一選択である。腫瘍を疑うときには超音波検査がまず行われる。結節、嚢胞の有無、大きさに焦点があてられる。

 甲状腺専門医でなければ、ここまでが限度ではないかと思われる。

 バセドウ病の確定診断には自己抗体検査、さらには甲状腺シンチがなされる。最後のシンチは設備を備えた施設で専門医による診断が必要になってくる。

 機能低下症の確定診断には自己抗体検査が必須である。鑑別診断は複雑であるけれども、アルゴリズムにのっとれば、シンチも細胞診もいらず、通常の施設でも診断可能と思われる。

 また腫瘍の最終診断は細胞診であるため、細胞採取の技術をもつ専門医にゆだねられるべきである。

 治療に関しては、機能亢進症の場合には手術療法がなされる。低下症の治療にはホルモン補充が行われる。腫瘍の場合には手術療法である。一般医のレベルでは機能低下症の薬物治療までが限度ではないだろうか。

 近著に『甲状腺疾患の診かた、考えかた』(中外医学社、3360円・税込)があり、筆者は本稿執筆にあたりおおいに参考とした。
(右京・田中啓一)

講演する田上哲也氏

講演する田上哲也氏

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