社保研レポート/日常診療で診る認知症  PDF

社保研レポート/日常診療で診る認知症

第642回(10/1)日常診療で認知症を診る/(アルツハイマーもレビーもこわくない)

講師:はやし神経内科院長 林 理之氏

講演する林理之氏
講演する林理之氏

 日本人の平均寿命は男性79・5歳、女性86・4歳と高齢化社会に突入し、高齢者比率は23%になり「認知症」が増えてきた。7人に1人が「認知症」である。

 症状は、中核の「記憶障害」と「判断力の低下」かつ「社会的または職業的機能の著しい障害」で、失語・失行・失認及び実行機能障害あり、結果として社会生活や日常生活に支障をきたす。

 有病率は朝田隆氏の報告では65歳以上の住民の14・4%とされ、75歳から79歳で10%を超え、90歳から94歳では70%と高率である。

 65歳以上で認知症原因疾患として朝田報告を引用し、アルツハイマー認知症(以降AD)67・4%、血管性認知症(VD)18・9%、レビー小体型認知症(DLB)4・6%、前頭側頭型認知症(FTD)1・1%と圧倒的にADが多く、プライマリ・ケア医としてこの疾患を知っておくべきである。少ないが特異なFTDの病像も知る必要がある。

 認知症状は「中核症状」と「周辺症状」があり、脳機能障害に記憶・失行・失語・失認・見当識障害と判断力低下がある。周辺症状はBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)が心理・行動障害として二次的に現れる。知識である意味記憶は比較的保持され、個人的体験であるエピソード記憶は欠落しやすい。実行機能障害の語健忘のことを聞いた。

 各論では、ADについて脳アミロイド(Aβ)蛋白が蓄積し、異常タウ蛋白が増加し、神経細胞機能不全に陥り細胞死をきたす「アミロイドカスケード仮説」がある。生化学的にはマイネルト基底核から投射するアセチルコリン作働性神経の低下が役割を果たし、これに基づいてアセチルコリンエステレース阻害薬がAD治療薬として幾つか実用化された。以前から血管性因子は約3分の1は脳梗塞等の血管病変を合併し、脳血管障害がAD発症リスクになり、その意味で生活習慣病も気をつける必要がある。症状経過から最終的には「寝たきり」になる。

 診断は基本的に臨床症状と経過からされ、特に「診断ガイドライン」はない。専門的には頭部MRIの側頭葉海馬傍回の萎縮を定量的に評価するのみならず、数種類の保険適応のある薬剤(ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン)が認知症診療に治療でき、幅が広がった。しかしその分、注意が必要で薬剤選択と組み合わせにスキルが必要でハロぺリドールやリスペリドン等々の薬剤が必要であるが、死亡率上昇等々あり投与に注意が必要である。長期投与は避け、疾患を除外する意味で、一度は専門医受診を勧めた方が無難と話された。

 次いでVDは、(1)大脳皮質の大・中の多発脳梗塞で脳卒中のように「急性発症」と「段階状悪化」を繰り返すタイプ、(2)多発ラクナ梗塞と白質虚血性変化で比較的慢性経過をたどるタイプ(ビンスワンガー病を含む)、(3)単一梗塞によるタイプに分け高次脳機能に影響を与え急性発症し角回、海馬、視床などの梗塞が原因になりやすい。症状は「まだら認知症」を呈する場合もあり、初期から片麻痺・パーキンソニズム・偽性球麻痺の運動障害や排尿障害を呈することが多い。

 VDの場合、脳卒中後の「抑うつ」「自発性低下」「せん妄」「情動失禁」などが問題。診断は症状経過と画像診断で、ただVDでは薬物は少量開始し、経過を見ることが重要である。

 DLBは「認知症状」「パーキンソニズム」「幻視」が特徴で、病像も複雑で治療も専門的スキルが必要なため専門分野の医師に任せるのが良い。

 FTD「ケア」については藤本直規氏らの『続認知症の医療とケア―「根拠のあるケア」を追い求めて』という本を紹介。若年性認知症は65歳未満で発症。正式には18歳から44歳で発症する「若年期認知症」、45歳から64歳までに発症する「初老期認知症」。原因疾患はVD、AD、頭部外傷後遺症、FTDの順で、脳血管障害の予防が重要とされた。

 近年、「正常でもないが、認知症でもない」軽度の認知機能障害がある場合が臨床現場で発生してきている。1996年にMCI(Mild Cognitive Impairment)として概念が提唱され、有病率は65歳以上の5%で、この状態での治療介入が大きな問題である。「認知症」があるかないかは医療者側の「気づき」が重要である。ただ、長谷川式知能スケールが21点あれば「認知症」ではないという紋切型の診断は慎まねばならないと話された。

 最後に「認知症者の診療」で心がけたいことについて、認知症の人にとっては「いつ、誰が、どこで、なにを、なぜ」という当たり前のことが把握できず、不可解な世界に変貌しているので、医師として想像力を巡らし、共感を持って診療することが重要であると締めくくられた。

(宇治久世・上田通章)

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