社保研レポート MetSの定義と診断基準を解説
第622回(5/15)メタボリックシンドロームと保険診療について
−特定健診を踏まえて−
講師:京都府国民健康保険団体連合会審査委員・和田内科医院院長 和田成雄氏
メタボリックシンドローム(MetS)は内臓脂肪蓄積によるインスリン抵抗性を基盤とした高血圧、糖尿病、高脂血症などの心血管系疾患に対するリスクファクターの集積した病態である。2005年4月にわが国では8学会の代表による合同委員会からMetSの定義、診断基準が報告された。その診断基準は周知のごとく、内臓脂肪蓄積を必須項目とし、高血糖、脂質異常、高血圧のうち2項目を満たすこととしている。内臓脂肪蓄積の評価方法としては腹囲が採用され、男性85cm、女性90cmがカットオフラインである。内臓脂肪蓄積とインスリン抵抗性は正相関である。臍高でのCT内臓脂肪面積が100cm2を超えると危険因子の集積が明らかに増加するが、それは診断基準の腹囲に相当する。わが国ではMetSの女性が少ないが、なぜ増えないのか論議されている。理由の1つは腹囲が女性で90cmであることがあげられる。もう1つの理由は、診断基準である低HDL-C血症を男女ともに40mg/dl未満としていることである。将来診断基準が改定される可能性もある。
脂肪細胞からアディポカインと総称される種々の生理活性物質が産生される。TNF-αはインスリン抵抗性を惹起する代表的なサイトカインで、インスリン受容体の基質であるIRS-1のセリン残基をリン酸化することによってインスリンの細胞内伝達を阻害する。逆に内臓脂肪が減少すれば、アディポネクチンが増加しインスリン抵抗性が改善される。インスリン抵抗性があると、脂肪分解抑制の低下による血中FFAの増加によって高脂血症が起こる。血糖は膵β細胞の代償不全を伴うとさらに高血糖となる。さらに、例えば、腎臓ではIRS-2が正常に活性化されているので、インスリン作用は十分に発揮されてNa貯留が起こり高血圧となる。それらはまたインスリン抵抗性を悪化させるという悪循環を引き起こしてくる。最終的には、動脈硬化促進、心血管疾患のリスクを増加させる。
わが国の糖尿病は、70年頃には100万人であったが、06年820万人と急速に増加している。その原因は、カロリーの摂取量は変わらないが、脂肪摂取の増加と車社会となり運動量の減少によって肥満が増え、インスリン抵抗性が増強することによって増加したと考えられている。耐糖能別にみたMetSの頻度は正常者で5%、境界型(IFG and/or IGT)では35%、糖尿病では50%以上に認められる。境界型でもかなりの頻度に認められし、その内のIFGでも油断はできない。
MetSでは中性脂肪が増加する。インスリン抵抗性になると、内臓脂肪細胞のHSLとPerilipin、ATGLとCGI-58がそれぞれ作用しTGを分解して、どんどんFFAとグリセロール(AQPapを通って)が血中に放出される。門脈を通りFFAは肝臓に入り再びTGに合成される。TGがどんどんできてVLDLとなり血中に出る。また、LPLの活性が低下しているのでカイロミクロンもだぶついてくる。TG-richリポ蛋白の代謝は十分に進まない。ところが、HTGLとCETPは活性化しているので、コレステロールのリヴァーストラスファーが亢進し、HDL-Cは低下する。TGは増加する。small dense LDLも生成される。
最後に、MetSと保険診療、特定健診・特定保健指導について簡単に述べられた。MetSは現在まだ傷病名として認められてない。MetS関連検査は、肥満関連、血圧関連、脂質関連、糖尿病関連、動脈硬化関連を想定できる。それぞれの病態に応じて適切な検査を選択すべきである。例えば、特定健診ではHbA1c5・2%以上をひっかけることになっているが、5・2%〜5・8%でもGTTで糖尿病型の場合があり検査をする価値はある。特定保健指導では、生活習慣の修正を20分以上指導する必要がある。栄養指導ついて京都栄養士会(電話075・642・7568)に相談するのも一法である。
(下京西部・鈴木茂敏)
【京都保険医新聞第2650号_2008年8月4日_6面】