社保研レポート 高まる予防的フットケアの重要性
第624回(9/20) 糖尿病足病変の予防、診断と治療
講師:井上クリニック 井上一知氏
糖尿病患者数の増加、罹患年数の長期化、生活様式の欧米化により糖尿病足病変が着実に増加していることをうけ、本年4月から「糖尿病合併症管理料」が保険診療に組み入れられた。糖尿病患者では重症下肢虚血を発症するリスクは4倍高く、約1・6%が足壊疽を誘発し、下肢切断は年間3000人に及ぶという現実があり、今後の糖尿病足病変の急速な増加が見込まれることから、その発症予防が緊急課題になっている。
糖尿病足病変の発症には末梢血管障害と神経障害(自律神経と末梢神経)が関与し、障害を有する足に外傷や機械的刺激、低温熱傷、化学薬品などの外因が付加されて潰瘍が形成され、感染を併発し壊死に至る。直接的な誘因としては靴擦れが圧倒的に多く、ついで熱傷、外傷、白癬症及び陥入爪や爪周囲炎からの感染症、乾燥・亀裂がある。これらの軽度皮膚病変を積極的に治療、ケアすることが予防的フットケアであり、その重要性が高まりつつある。
糖尿病患者は自覚症状がなくても知らないうちに末梢血管障害や神経障害を来たしていることが多く、そのため少なくとも1年に2回は足の診察が必要である。胼胝・鶏眼・白癬などの非潰瘍性病変が誘引となって潰瘍性病変、壊疽へと進展していく場合も多い。足に傷をつける危険性をできる限り排除するためには、足病変に対する認知度が低い現状を考慮すると、患者及びその家族に対する丁寧な教育が必要と考えられる。
予防的フットケアの中心は、爪、胼胝・鶏眼・皮膚のケアである。肥厚した爪は靴からの圧迫をうけやすく、爪甲剥離を起こした爪の下には老廃物が溜まり異物混入の危険性があるが、家庭用爪切りでは切除は困難であり放置されることもある。胼胝・鶏眼は放置すると内部に損傷が起こり、潰瘍の発症や2次感染から壊死に至ることもある。胼胝・鶏眼切除は足病変発症リスクを軽減させるための重要な治療であり、またフットケアの中でも最も大切なケアであり、自宅での素人療法は極めて危険である。皮膚の乾燥や亀裂に対しては、軟膏塗布、足浴、マッサージなどが行われる。フットケアの一環として重要視されていない傾向にあるが、足潰瘍、壊疽の誘引として最も頻度が高いのが靴擦れであり、自己管理の主要課題の1つとされる。
予防的フットケアを有効に行うには、医師とコ・メディカルが協力しチーム医療として取り組むことが大切である。治療技術の習得や治療器具も必要であるが、まずは糖尿病患者への問診・足の観察を積極的に行うことが重要である。
(船井・冨井 隆)
【京都保険医新聞第2663号_2008年11月3日_4面】