知事会が「総額管理」導入の動きに反対表明  PDF

知事会が「総額管理」導入の動きに反対表明

協会は会員署名で同意見提出

 国は2015年1月13日、社会保障制度改革推進本部で「医療保険制度改革骨子」(以下、「骨子」)を決定した。国保の都道府県化と一体的な国庫負担増額、入院時食事療養費の段階的引き上げや紹介状なし大病院受診時の定額負担、患者申出療養創設等が盛りこまれた「骨子」(第2917号にて既報)に対し、全国知事会(会長・山田啓二京都府知事)が緊急要請を提出した。「医療費適正化計画の見直しに係る緊急要請」である。
 今回の「骨子」には、都道府県医療費適正化計画の見直しが盛り込まれている。同計画は、06年の小泉医療制度構造改革で高齢者の医療の確保に関する法律に盛り込まれた、都道府県による医療費管理システムの中心装置である。特定健康診査・特定保健指導の実施率や平均在院日数を数値目標化させ、5年を一期として「医療費の見通し」を定めさせる。「骨子」はこの計画を改革し、先に成立した医療・介護総合確保法に基づく都道府県「地域医療構想」と「整合的な」計画策定を求める。加えて、現在は「任意記載事項」となっている項目を「必須記載事項」に、医療費の「見通し」は「目標」に格上げするという。
 この見直しの背景には、経済財政諮問会議が「骨太の方針2014」で打ち出した、都道府県単位の医療費総額管理制度に向けた流れがある。全国知事会の緊急要請は、この「目標」化を中心に懸念を表明したものだ。要請は「…推計値に過ぎないようなものを『目標』として設定しても、都道府県は結果責任を負うことは困難」「一度『目標』と設定してしまえば、それが独り歩きして、様々な場面で都道府県を拘束する懸念がある」。まさにそのとおりであり、この「懸念」に事の本質がある。都道府県自身が、医療費抑制主体となることを許容するのか、それとも医療保障主体として地域医療政策を担うのかの分岐なのである。
 後期高齢者医療制度廃止運動を展開していた当時から、協会は医療費適正化計画の危険性を訴え、国のみならず京都府に対しても、繰り返し医療費適正化策に与しない立場の堅持を要請し続けてきた。京都府が「医療費適正化計画」の名称を用いず、「中期的な医療費の推移に関する見通し」としたことを評価してきた。そうした立場から、今回の全国知事会の緊急要請を歓迎し、全国知事会長を先頭に、この立場を堅持し、国に対峙することを強く望む。協会も、地方自治体とともに今回の医療制度改革に抗して、運動をすすめていく。

全国知事会が厚生労働省に提出した要請全文

医療費適正化計画の見直しに係る緊急要請

 本日の社会保障審議会医療保険部会において、医療保険制度改革骨子案が示され、その中で、医療費適正化計画の見直しについて、「都道府県が地域医療構想と整合的な医療費の水準を目標として設定する」という方針が示された。
 都道府県が地域医療構想の策定等による病床機能分化の推進や住民の健康の保持増進、後発医薬品の使用促進など医療の効率的な提供の推進等を通じて医療費適正化に積極的に取り組むべきことは当然であるが、これらの取組が、具体的にどのように医療費適正化につながるのか必ずしも明確でない中で、従来「医療費の見通し」としてきたものを「目標」とすることに、多くの都道府県から強い疑問の声が上がっている。
 医療費は、住民はもとより、多様な保険者をはじめ、医療機関、地方自治体など様々な主体の活動の結果であり、また、医療資源の多寡や診療報酬が占める要素が大きいものであることから、都道府県が管理できる要素は非常に限られており、権限もない。
 このため、現行の医療費適正化計画においても、特定検診・保健指導の実施率や平均在院日数等の施策目標を達成した場合に予想される医療費を見通しとして盛り込んでいるところである。
 そのような推計値に過ぎないようなものを「目標」として設定しても、都道府県は結果責任を負うことは困難であり、また、一度「目標」を設定してしまえば、それが独り歩きして、様々な場面で都道府県を拘束する懸念がある。
 これらのことを踏まえ、都道府県が医療費を管理できる要素が限られているにもかかわらず、「医療費の見通し」を「目標」と見直すことについては反対であり、引き続き全国知事会と十分協議し、計画の策定主体である都道府県の合意がないまま、法律案の提出を強行することのないよう強く要請する。
 また、特定検診・保健指導の実施率や平均在院日数等、現在、任意記載事項とされている指標を必須記載事項に見直すことについては、これらの指標が医療費適正化に及ぼす効果が不明確であり、保険者や医療機関、住民、市町村等に強制する権限がない以上、都道府県は指標に対して結果責任を負うことは出来ない。また、現行の任意記載事項とすることは、平成23年度の地方分権改革の一環で法律改正された経緯があることから、「医療費の見通し」を「目標」とすることに併せて、今回の法律改正によって都道府県に対して義務付けを強化することは認められず、引き続き任意記載事項にとどめるよう要請する。
平成27年1月9日
全国知事会会長 京都府知事 山田 啓二
同社会保障常任委員会委員長 栃木県知事  福田 富一

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