着々と進むレセプト電子化の先にある問題/上・内閣IT戦略本部が「MY病院」構想  PDF

着々と進むレセプト電子化の先にある問題/上・内閣IT戦略本部が「MY病院」構想

 京都府保険医協会理事会は11月30日と12月14日の両日、「医療IT化政策をめぐる状況」について、鈴木副理事長が問題提起をした。本紙でその概要を2回にわけて掲載する。(次回は1月20日号に掲載予定)

 レセプトのオンライン請求の義務化は、09年11月25日の請求省令の改定により撤回され、神奈川・大阪での集団訴訟も勝利的な取り下げで一段落した。しかし、レセプトの電子化は一部を除いて段階的に進められ、電子レセプトの割合は、今年10月請求分(基金)において、件数で医科の92・5%、機関数で医科の79・1%に達している。

 今年5月には内閣IT戦略本部が「新たな情報通信技術戦略」を公表、「医療分野の取組」が複数掲げられた。その中でも、(1)「どこでもMY病院」、(2)レセプト情報等の活用による医療の効率化―の2点は、保険医に大いに関係がある。

 加えて、行政刷新会議の事業仕分けで問題とされた、審査支払機関の改革の影響を受けて、電子レセプトの審査におけるIT活用が拡大される。また、規制改革を求める財界勢力からのレセプト、カルテの完全電子化の要求も引き続き出されている状況だ。

民間サービス創出のための「どこでもMY病院」構想

 「新たな情報通信技術戦略」は、医療分野の重点施策として、「全国どこでも過去の診療情報に基づいた医療を受けられるとともに、個人が健康管理に取り組める環境を実現するため、国民が自らの医療・健康情報を電子的に管理・活用するための全国レベルの情報提供サービスを創出する。このため、第一段階として、個人が自らに対する調剤情報等を電子的に管理する仕組みを実現する。また、匿名化されたレセプト情報等を一元的なデータベースとして集約し、広く医療の標準化・効率化及びサービスの向上に活用可能とする仕組みを構築する」とした。

 この具体的取組が、以下の点である。

 (1)「どこでもMY病院」構想の実現

 (2)レセプト情報等の活用による医療の効率化

 (1)「どこでもMY病院」構想(資料1)は、まず調剤情報の一元管理を発端に、「医療機関、健診機関、家庭などに散在している個人の医療・健康情報を、個人が自らの生活の質の維持や向上を目的として、一元的に収集・保存・活用するための情報サービスを創出」するとしており、あくまで民間サービスの創出を目的としている。

資料1 「どこでもMY病院」構想の概要
資料1 「どこでもMY病院」構想の概要
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 戦略本部資料では、イギリスの患者の診療記録の概要を共有する「Summary Care Record」、デンマークの電子診療記録の要約である「National Patient Index」、オランダのEHR(Electronic Health Record)を紹介している。各国とも個人の医療情報はかなり神経質、厳密に取り扱っているのだが、日本は検討段階でそれをぼかして、便利な点だけを強調している。

 また、ヨーロッパのかかりつけ医(GP)制度は二次医療病院・専門病院の門番的役割を受け持っており医療情報が1カ所に蓄積されているが、日本はフリーアクセス制度なので医療機関毎の縦割りによって他の医療機関による過去の診療情報が参照できない、医療情報が散在すると批判。「どこでもMY病院」構想のメリットを謳っている。

 ただし、ここで想定されているのは、08年10月28日の厚労省・社会保障カード(仮称)の在り方に関する検討会の「議論の整理」で示されたような、医療機関が電子的に提出したレセプトを、保険者のサーバから、中継データベースを介して、行政が構築した「電子私書箱」上で患者がアクセスするような仕組みではない。

 現在検討されているのは、受け取ったレセプトや「お薬手帳」等の情報を、患者自身が事業者のデータベースに入力し、それを利用する仕組みである。現在、そのための「標準フォーマット」の整備の検討が進められている(資料2)

資料2 「どこでもMY病院」における基本的構想
資料2 「どこでもMY病院」における基本的構想
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 13年までの第1期サービスではレセプトや「お薬手帳」等の情報のQRコードやICカードによる提供、14年以降の第2期サービスでは健診情報、個人向け退院サマリ、検査データ等を医療機関からCD―ROMにて手渡すかネットワークで事業者のサーバーにアップする方法が示されている。

 国民に対しては、(1)健康カレンダーでいつでもどこでも簡単チェック、(2)健康家計簿で支出もらくらく、(3)健康窓口で旅行、救急時に医療情報を活用、(4)民間健康サービスへの活用―等をサービス活用のイメージとして示している。(4)については、既に健康管理市場への携帯キャリア、ポータルサービス、健康機器メーカーなどの参入が活発化している。

 なお、参考事業として、京都において、NPO法人日本サスティナブル・コミュニティ・センター(SCCJ)が(株)フェイス、ウィルコムと共同開発し運営する個人向け健康情報管理サービス「ポケットカルテ」が紹介されている。

レセプト情報等の外部提供は問題あり

 (2)「レセプト情報等の活用による医療の効率化」は「匿名化されたレセプト情報等をデータベースとして、厚生労働省で集約することを一層推進し、11年度早期にレセプト情報(DPCコーディングテータ含む)、特定健診情報、特定保健指導情報を外部に提供するため、10年度中に有識者からなる検討体制を構築し、データ活用のためのルール等について結論を得る」というものである。

 現在、レセプト情報、特定健診・特定保健指導情報は保険者が匿名化した上で、厚労省保険局総務課で収集している。これらに救急情報等を加え、将来は資料3のように厚労省内で目的別二次データベースに加工して、様々な目的のために、外部に提供することを検討している。

資料3 レセプト情報等の提供体制について
資料3 レセプト情報等の提供体制について
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 医療の効率化の面では、(1)自治体の利用については「医療機関の設備状況や治療実績等といった情報を客観的データで見える化し、医療資源の最適配分等を行い、医療の効率化を目指す」、(2)医療機関の利用については「地域の病院の平均的パフォーマンスや診療プロセスと、自病院のそれらとの比較により、自病院の長所・短所を把握。結果として、病院経営が効率化し、また医療の質も向上」、(3)保険者の利用については「自ら保有するレセプト情報等を活用し、レセプト点検を行ったり、特定健診等情報と併せて活用することにより、保険事業の質の向上を図れる」―と謳っている。

 具体的な検討は、今年10月から有識者会議を立ち上げ、「医療費適正化計画の作成等に資する調査・分析を行う以外の用途で、データの利用申請があった場合に、データ利用の公益性等について検討・意見交換を行い、厚生労働大臣が申請者に対するデータ提供の可否を決定するにあたり、助言することを目的」に検討を重ねている。

 問題は、様々な政府資料で、外部利用者と想定されている研究機関等の「等」の中に民間企業が加えられていることだ。法的根拠はないが、研究機関「等」がデータを活用できるように制度や根拠を作るために審議するのが有識者会議の役割であるため、要注意である。

 資料4によれば、厚労省保険局総務課に蓄積されているレセプト情報と特定健診等情報は各々のサーバに送られる前に別々に匿名化処理がされているが、データベース内では突合、結びつけが行われている。

資料4 レセプト情報・特定健診情報の収集経路
資料4 レセプト情報・特定健診情報の収集経路
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 逆に言えば、個人が特定される恐れのある情報になっている。同一保険者内ではレセプトと特定健診等のデータの結びつけは可能である。結びつけた後に匿名化して厚労省のサーバに送れば、個人の特定はより困難になり、政府の意図する医療費分析も可能なはずだ。何故、個人が特定される恐れのある情報としてデータベースに保有するのか疑問である。

 また、外部提供する場合は「用途に応じて集計・加工等を行う」としているが、問題なのはどのような加工が施されるのか、その加工されたデータが本当に正しいのか、医療政策を考える上で根拠になるのか―という点である。特に、分析・研究に用いる際に、例え漏洩しても絶対に患者個人が特定できないような情報に加工するとともに、根拠のあるデータに加工されていることを明確にし、透明化する必要がある。ヨーロッパでは慎重に考えて試行錯誤しながら進めているが、日本は情報の質、内容の検討を外して話を進めており、個人と結びつく情報として活用しようとしていることが問題である。(続く)

資料1〜4 内閣IT戦略本部「新たな情報通信技術戦略」関係資料より

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