療養病棟をどこまで搾りあげるのか!
入院中の他医療機関受診に係る規制強化で崩壊も
入院中の患者が、必要があり他医療機関を受診した場合には、入院側が算定する入院料が、点数表の規定により、30%ないし70%減算される取扱い(DPCを除く)となっている。医療療養病床についても例外ではない。療養病棟入院基本料を算定している患者が受診した場合、外来側が算定した基本診療料以外の点数(特掲診療料)のうち、療養病棟入院基本料に包括するとされている点数が含まれる場合には入院料を70%減算。含まれない場合であっても30%減算する仕組みになっている。今回、入院中の他医療機関受診に関して、府内で療養病棟入院基本料を算定している病院を取材し、話を聞いた。
減算は多額に
他医療機関受診による減算額は、2010年4月から12月までで、実に44万円に達したという。当該病院は、療養病棟のみであり、規模も100床未満。標榜科目も限られており、病院としては小規模といえる。そのため、専門外の他科への受診が必要になる場合も多く、また、他科への受診を拒むことはもちろんできないため、入院料を減算せざるを得ないのが現状である。
70%減算ばかり
「耳鼻咽喉科や眼科への受診が中心であり、また、他医療機関を受診するのだから、処置や投薬が行われる。療養病棟入院基本料が、70%減算を免れることはまずない」と、請求事務担当者は話す。特掲診療料算定がなければ、他医療機関受診の必要性そのものが問われかねない。確かに10年4月から12月の間に、当該病院から他医療機関を受診する際の患者の入院料は、すべて70%減算されていた。
療養病棟入院基本料に関しては、10年4月改定以前からこの入院料70%減算の規定は存在していた。新たに設けられたのは、30%減算の規定である。あたかも「良心的」な取扱いが追加されたと誤解されそうであるが、これは、外来側で特掲診療料算定がない場合の話である。このようなことが極めて稀なことは、当該病院の状況からも容易に理解できる。
他医療機関受診の規制が強化されてすぐの2010年4月診療分のレセプト(今回の取材病院)。診療実日数30日と、4月中ずっと入院している事例だが、もともとの入院料が低いこと、他医療機関受診した日が4日あり、その日の入院料が70%減算され、1日わずか234点となってしまったことから、総点数が2万点を切った。これでは入院医療が成り立つはずがない。
薬剤新規採用による新たなコスト発生
追い打ちをかけたのは、投薬など薬剤の取扱いである。療養病棟入院基本料算定病棟入院中の患者の場合、外来側で投薬できるのは専門的な診療に特有な「受診日」のみの分とされており、その日に用いる薬剤以外を外来側で投与することができない。このため、入院側の医療機関で治療に必要な薬剤を準備しなければならず、このための新たなコストが発生することになる。10年4月改定までは、この投薬に要する費用は外来側が請求できていた。しかし、10年4月改定により、外来側が請求できなくなり、入院側がその負担を強いられた。入院料を70%減算した上に、薬剤代及び薬剤を新たに採用するコストまで必要になったのだ。「せめてこの投薬の制限だけでもなくなってくれたら」、と担当者は漏らす。
受診のために必要な人手
当該病院における入院患者の特性から、他医療機関受診をするにしても自力で受診できる人は、皆無という。場合によっては、職員が個人で所有する車により連れて行くこともあるという。その間、当該職員は、院内では仕事ができない。減収である上に、さらに人手までとられているのが現実だ。
家族が受診、危うくトラブルに
入院側が知らないうちに、家族が他医療機関に受診し、患者本人に代わって投薬を受けようとしていたケースがあったという。幸い外来側医療機関が気付き、入院側に入院中かどうかの照会があったため、他医療機関での投薬を食い止めることができたが、このようなケースが今後も起こり得ることは、十分考えられる。
患者本人が入院中に外出する場合は、外出許可願・許可証等によって管理をされているが、患者の家族までは入院側医療機関で管理をすることはできない。厚生労働省は、このようなことを想定しているのかどうか、甚だ疑問である。
なぜ診療情報提供料が算定できない
他医療機関受診に際して、入院側は、外来先に対し必要な診療情報を文書で提供しなければならない。しかしこのコスト算定は、点数表上認められていない。「受診の都度必要にも関わらず、点数表上評価されていないのはおかしい」と、文書を作成する担当者からは非常に不評を買っているという。
患者への影響も明らかに
「入院中の他医療機関受診の取扱いが変更され、規制が強化されたことは、改定時の説明会等により、頭では理解していた。しかし、その影響を日が経つにつれ実感していった」のだという。「療養病棟への入院希望は多数あり、順番待ちの状態。当院では医療区分の度合による選別は行っていないが、入院後明らかに他医療機関受診が必要な患者については、入院を断っているのが現状。患者等に影響が出るのは承知しているが…」と漏らす。医療担当者に患者を選別させてしまうようなこの規制。厚生労働省が改めるべきであることは言うまでもない。
対診も転院も現実的でない
入院中に他医療機関受診が必要となった場合、外来受診以外、他に考えられるのは、対診と転院である。しかし、医師不足が叫ばれる中「1人の患者のためにわざわざ病院まで来てくれる医師は少ない」といい、「他科への受診が必要な疾病による入院適応がない限り、転院はまず不可能」というのが現実である。厚生労働省はもっと現場に目を向けるべきである。
どこまで搾りあげるつもりなのか
「療養病棟に医療区分が導入され、『医療区分・ADL区分に係る評価票』などの文書作成作業の増加、患者の重症化など、療養病棟には次々と試練が課せられてきている。スタッフの定着率の高さが売りだった当院でも、定着率はどんどん下がってきており、スタッフ確保が大変な状況に陥っている」と話す。そこに追い打ちをかけるような入院中の患者の他医療機関受診に係る規制強化。「厚生労働省は乾いた雑巾をどこまで搾りあげるつもりなのか。このままでは療養病棟が崩壊しかねない」と憤りを隠さなかった。
10年4月改定から約1年。この他医療機関受診の問題の大きさがどんどん明らかになってきている。協会では、引き続きこの件を問題とし、厚生労働省に対して異を唱えていきたい。