産婦人科診療内容向上会レポート
出生前診断の現況と今後の展開について解説
第46回産婦人科診療内容向上会が8月30日、京都市内のホテルで開催された。参加者は121人。兵庫医科大学産婦人科准教授の澤井英明氏が「出生前診断の現況と今後の展開」と題して講演を行った。
京都産婦人科医会会長の大島正義氏、保険医協会理事長の垣田さち子氏のあいさつに引き続き、支払基金京都支部審査委員の山下元氏より「保険請求の留意事項と最近の審査事情」の解説が行われた。
次に澤井英明氏より「出生前診断」をテーマに、これまでの歩みや現況、数値的解析の意味も含め、今後の問題について詳しく講演いただいた。
現在、晩婚化により高年初産が増加していること等の社会情勢と、生殖補助医療による妊娠の増加、また新型出生前診断など新しい医療技術の導入により、出生前診断は非常に注目されているが、倫理的問題も含み議論されている。
歴史的には出生前診断は㈰侵襲的検査として羊水検査、絨毛検査による染色体検査による確定診断と、㈪非侵襲的検査である超音波検査所見、妊婦血清による母体血清マーカーなどが使用されてきた。
㈰㈪を組み合わせた複合スクリーニング検査とはリスクを伴う侵襲的検査をまず実施するのでなく、非侵襲的な検査で染色体異常妊娠であるリスク評価を行い、一定のカットオフ値を超えた場合に侵襲的検査を行って確定診断するという方法である。これは欧米では標準的手法であるが、その考え方や姿勢は世界各国で異なっており、日本では最近まで母体年齢と血清マーカーが行われている状況であった。
話題の新型出生前診断Non Invasive Prena-tal Testing(NIPT)の原理は、妊婦の血漿中に存在する胎児由来のDNAである細胞フリー胎児DNA(cell free fetal DNA:cff DNA)を用いて遺伝子検査を行うもので、胎児染色体異数性のリスクが高い妊婦に対して臨床応用されている。対象となる妊婦については日本産婦人科学会において具体的な指針が示されているが、高齢妊娠の年齢が明確化されていないといった指摘がある。
また、NIPTは対象となる妊婦であっても、検査前に適切な遺伝カウンセリングを受ける必要があり、妊婦自身が選択すべきものである。また現在のところ費用は大変高額であることなどが示された。
この検査結果の解釈として、大規模臨床試験で21トリソミーについては感度(陽性的中率)99・1%、特異度(陰性的中率)99・9%が示されており、13および18トリソミーについても近い精度が示されているが、あくまで精度の高いスクリーニング検査であり、確定診断検査ではない。NIPTの検査結果が陽性であった場合、妊婦の年齢が大きく影響する。40歳の妊婦であれば約95%の確率で実際に21トリソミー児を妊娠しているが、年齢の低下とともに確率は低下し35歳では約84%、30歳では約68%にまで低下するというこの事象を、数値的解析で示された。また一方でNIPTの結果が陰性であった場合の陰性的中率は、どの年齢でも99・9%以上である。
以上より、NIPTの実施前にはこの検査の有用性と限界についての情報提供を含めた遺伝カウンセリングを行い、妊婦自身に十分理解していただくことが不可欠である。あくまで高精度のスクリーニング検査であり、陽性となった時は侵襲的検査を受ける必要があること、陰性となった場合は大変低い確率ではあるが罹患児の出生の可能性のあること、また検査対象の染色体異数性以外は予測不可能であることも十分説明する。決して羊水検査、絨毛検査などの確定診断に代わるものではないことを説明する。
これらの検査法をいかに誤解なく、優れた点を活かして運用していくかが、これからの臨床医の課題であることを明快に示され、大変有意義な時間となった。
(右京・玉置聡子)