産婦人科診療内容向上会レポート/不妊と免疫の関係を解説
第43回産婦人科診療内容向上会が8月20日、京都ホテルオークラで開催された。兵庫医科大学産科婦人科学講座教授・小森慎二氏が「不妊と免疫」と題して講演し、104人が参加した。
大島正義京都産婦人科医会会長、関浩保険医協会理事長の挨拶に引き続き、山下元支払基金京都支部審査委員により「保険請求の留意事項と最近の審査事情」の解説が行われた。
次に座長の京都府立医科大学女性生殖医科学教授の北脇城先生より小森慎二先生のご紹介が行われた。小森慎二先生は徳島大学のご出身で2009年に兵庫医科大学産科婦人科学講座教授となられた。当日のテーマは「免疫と不妊」で、精子不動化抗体、抗透明帯抗体についてこれまでのご研究のまとめをお話しいただいた。
不妊症の原因の中で免疫因子は約3%といわれ、頻度は決して高くないが男女共に常に考えるべき原因である。抗精子抗体による不妊症の機序は精子の性管通過障害、卵への結合阻害、受精阻害、胚の発育阻害等があるが、抗精子抗体にも多様性があり全てこれらの作用を持っているのではなく、其々の抗体により作用が異なると考えられている。女性では補体依存性の精子不動化抗体は不妊症との関連が一番高いことが明らかになっており、広く臨床使用されている。強陽性例は体外受精の適応となる。一方、男性が抗精子抗体を保有する場合、射精された精子には抗体が付着している。抗体付着精子含有率が80%以上の場合、体外受精での受精率が低下することが報告されており、顕微授精の適応となる。また対応抗原は精巣内精子には存在せず、精巣上体精子と射精した精子、さらに精漿中にも多量に存在する。この対応抗原はリンパ球とは異なった糖鎖構造を持つmale reproductivetractCD52(mrtCD52)であることが明らかとなった。mrtCD52の精子上での機能を調べた結果、補体抑制活性が存在することが判明し、精子が女性性管の中を通過する際の防御機構に関与している可能性がある。
卵透明帯は抗原性が強く、異種動物の透明帯の免疫により自己抗体を誘導することが報告されている。不妊症患者の十数%、早発閉経の50%近くに透明帯抗体陽性患者が認められた。透明帯抗体の存在により卵成熟が阻害され、また受精しても胚盤胞率が低下することがわかった。すなわち、卵透明帯抗体と卵巣機能との密接な関連が示唆された。
不妊症治療に携わる者として決して疎かにしてはならない免疫の問題を、わかりやすく明快にお話ししていただき、知識の整理と肉づけをすることのできた本当に有意義な時間であった。
(京都産婦人科医会理事 田村秀子)