生活保護法改正案廃案を要望
「いかに保障するか」へ転換を
協会は、6月5日、「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急要望を、安倍首相・田村厚労相宛に送付。また同日、京都選出の衆参国会議員にも提出を報告。廃案の立場で活動するよう求めた。
同法案は5月17日に閣議決定・国会上程された。衆院では僅か2週間で審議を終え、可決。現在、参院での審議に付されている。2014年度予算案(5月15日成立)に盛り込まれた生活扶助基準引き下げ(8月実施)と一体的に検討されてきた制度本体の改革を目指すものである。
中でも、「水際作戦の合法化」と批判が集中しているのが、「申請による保護の開始」を「書面」で求める(第24条)としたこと。各自治体窓口で「申請書が自治体の準備したものと違う」「口頭では受けられない」等の扱いがなされてきたが、現行法に照らせば違法な対応で、餓死などの悲劇を生む一因とされる。衆院では、採決に先立ち申請について特別な事情があれば書面なしで申請できるよう、若干修正されたが、本質的な改正ではない。また、スピード可決の背景に、本法案が先に成立した社会保障制度改革推進法を根拠としており、同法に賛成した会派が反対しないことが指摘できる。
協会は主に医療扶助をめぐる改正点について、その問題点を指摘した。以下、要望書全文を掲載する。
〈緊急要望〉生活保護法の一部を改正する法律案を廃案に
6月4日、生活保護法の一部を改正する法律案が衆院本会議で可決した。5月17日の議案提出から僅か2週間。社会保障の根幹に関わる本法案の重要性から見て異常な速さである。可決に手を貸した議員は法案の重大性を認識しているのか疑わざるを得ず、政治家としての資質が問われる。私たちは医療者として、本法案の衆院可決に抗議し、参院段階での廃案を強く求める。
今回の生活保護法改定案は、既に成立した平成25年度予算案(5月15日)での、恣意的なデータによる生活扶助基準引き下げに続き、制度の意義と役割を真摯に顧みることもなく提案された。
政府は、マスコミを総動員して保護受給者をバッシングし、国民間の対立を煽っている。その結果、保護受給者たる国民が、あたかもみんな「怠け者」で、一般低所得者に比べ「贅沢三昧」であるかのように描き出されている。つまり、この改革は政府自身が操作して「作り出した世論」を味方にして進められている。こうした政治手法は、一部国民の生きる権利を侵害し、人格を貶めることで成り立つ。これが正しい政治のあり方か。国は、国民の生きる権利を保障する義務を負う。生活保護制度の補足率が2割という国際的にも異常な低さは、国が義務を充分に履行していないことを表している。自らの義務も果たさず、保護受給者敵視へ世論を誘導すること自体が許されない。
既に改定案の内容について、申請権の侵害(第24条)、扶養義務の強化(第24条・28条・29条等)等、権利としての社会保障(国家の責務としての社会保障)原則を逸脱していることを、法曹界はじめ、多くの識者・団体が詳細に批判している。
私たちは主に医療扶助にまつわる改革内容に関し、指摘しておく。
(1) 後発医薬品使用促進の名目で受給者を差別してはならない
後発医薬品使用促進について、医師の努力義務が課される(第34条3)。政府は、医師がサボタージュで後発医薬品を使用していないと考えているのか。だとしたらとんでもない話である。私たちは実際に効能において先発医薬品と同等とは考えられないケースを臨床で経験している。会員対象アンケートでも、後発品への変更で不具合が生じた具体的事例が複数寄せられている。後発医薬品の信頼性は全面的に確立しているとは言い難い。品質にバラツキがあり、客観的に効能や安全性が担保できない後発品が存在する限り、処方権を持ち、患者の生命に責任を持つ医師団体として、「努力義務化」は認められない。後発医薬品の安全性を担保するのは国の責任であることを再認識すべきである。
まして、医療扶助受給の患者について、他の患者とは明らかに違う取り扱いを強要することは、法の下の平等に反するあからさまな差別であり、言語道断である。
(2) 一部のモラルハザードを利用しても、全体の締め付け策は正当化できない
また、受給者本人の不正受給に止まらず、改定案は指定医療機関の指定要件、個別指導、検査、罰則(取消及び取消相当処分、再指定の拒否)の強化を盛り込んでいる。私たちは、不正受給も生活保護受給者を食い物にするような医療機関の存在も許さない。しかし、今回の改定案は受給抑制だけを目的としており、一部の人たちのモラルハザードはその根拠に利用されているのに過ぎない。締め付けを強化すれば、指定を望む医療機関が減少する可能性が大きい。萎縮診療で制度の医療保障機能が低下する恐れもある。
不正防止策は必要であろうが、社会保障制度は「いかに保障するか」の思想で設計すべきであり、「いかに受給抑制するか」と考えて組み立ててはならない。その根本から改定案は間違っている。
以 上
2013年6月5日
京都府保険医協会
理事長 垣田さち子