生活保護で医療保険並みの個別指導を開始/京都市が「実態調査」の名称で  PDF

生活保護で医療保険並みの個別指導を開始

京都市が「実態調査」の名称で

 京都市は3月21日、生活保護法指定医療機関に対して、「実態調査」という名称の新たな「個別指導」を行うことを、保健福祉局長名で関係団体に通知した。

 これは2011年3月8日、厚労省が、生活保護法指定医療機関に対して、従来の「福祉事務所と指定医療機関の相互理解と協力を確保することを主眼として行われる」個別指導に加え、支払基金から提供される被保護者の電子レセプトを分析した結果、(1)被保護者に関する請求割合が高い、(2)健康保険の患者に比べて被保護者のレセプト1件当たりの点数が高い、(3)被保護者の県外受診の割合が高い、等の指定医療機関を選定して個別指導を行うよう求めたことを受けての対応である。

 京都市の門川市長は、既に2011年3月10日の市議会において、生活保護の不正受給に対応するため、部長級職員をトップとする専門チームを設置する方針を表明。2011年度から、生活福祉部地域福祉課内に「適正化推進担当」という名称の専門チームを設置していた。

現行の個別指導とは別途実施

 同チームからは、2011年11月協会に対して、この新たな個別指導の取り組みに関する説明があり、以後数次の協議を行った。その席で担当者が述べたのは、「現在の生保の個別指導は、患者(被保護者)の就労可否と療養態度に関するケースカンファレンスを中心に実施されているが、これとは別に、1)被保護者、福祉事務所職員または医療機関関係者等から、診療内容または診療報酬の請求に関する通報があった医療機関、あるいは、2)レセプトの点検を行った結果、3カ月以上にわたって請求内容または点数の妥当性が検証できない事案が複数認められた医療機関に対する個別指導を行いたい」というものであった。

 これに対し協会からは、今回の申し出には多数の問題点が含まれており、このままでの実施は認められない旨の意向を伝えた。協会が指摘していた問題点は、以下の通りである。

 ?生活保護法に基づく指定医療機関に対する指導には、「一般指導(講習会的なもの)」と「個別指導(懇談指導)」しかなく、内容上それを超えるものは「検査」と言われるものになる。今回当局より提示されている内容は、「調査」の結果次第では「検査」を実施し、指定医療機関に対する行政措置を行うことを想定している点からみて、実質的に法令上の「検査」の一部に該当すると思われるが、それを「指導」の範疇で行うとしている点は、法令に定められた内容を逸脱しており、被指導医療機関の混乱を招く原因となるのではないか。

 ?「指導」であるにも関わらずそれに「実態調査」という法令上根拠のない名称を冠することは問題である。従来の「生保個別指導」で実施されてきた立会者を回避するための便法なのではないか。

 ?立会者としては、医療関係団体からの立会いを想定しないとする一方で「本市の指定する学識経験者」が指定されているが、前記の二つの選定理由からみてどのような者を立会者として想定しているのかが疑問である。

 ?医療扶助運営要領(昭和36年9月30日・社発第727号)の第6「指導および検査」の項には、「指導の実施に際しては、(中略)関係団体との連絡調整を行い運営の円滑を期する」とあり、個別指導をその実施の趣旨に沿うものとするためには、府医師会など幅広い関係諸団体とよく協議した上で実施するべきである。

実施要領は医療保険における
個別指導、監査とほぼ同様

 市当局が、実施の方針に変更なしとの通知を行ったことで、今後市内の生保指定医療機関に対しては、新たな個別指導が実施されることになった。その実施の要領は、以下のようなことである。

 1.厚労省が示した上記(1)〜(3)のような対象選定は行わないが、被保護者、福祉事務所職員、医療機関関係者等からの通報があった医療機関でレセプト点検の結果からみても疑義が持たれる医療機関と、3カ月分以上にわたる縦覧点検の結果、請求内容や点数の妥当性が疑われる医療機関を対象とする。

 2.対象医療機関には実施日の3週間前までに日時、場所等を通知し、実施日の4日前までに対象患者を通知する。

 3.実施時期は随時とし、関係の医療団体との事前協議の対象にはしない。

 4.実態調査(個別指導)にあたっては、カルテその他帳簿書類等を市側担当職員、嘱託医が閲覧する。

 5.立会者は、京都市が指定する学識経験者。従来から行われている生保個別指導で行われているような立ち会いは求めない。

 6.実態調査(個別指導)の結果、過誤が発見された場合、市は支払基金に連絡し、当該指定医療機関に支払う予定の報酬から控除させる。また、指定医療機関には他に同様の過誤が無いか、自主点検させる。

 7.実態調査(個別指導)の結果、不正・不当が疑われる場合は、立入検査(健康保険でいう監査)を実施し、行政措置(取消、戒告、注意)を行う。

 以上から想定される事態は、いわゆる医療保険並みの個別指導、監査が行われるということだと考えざるを得ない。

疑問、不安については協会にご相談を

 これに対して協会は当局に対し、協会が指摘した問題点が汲み取られていないことなどを指摘し、理解を求めるとともに、以下を改めて主張した。

 (A)医療保険における個別指導と同レベルの個別指導をあくまでも実施するということならば、指定医療機関と医師の人権保障の観点から、指導内容の録音及び弁護士の帯同を認めること。

 (B)実施した結果、対象にしたことが誤りであったことが判明した場合でも医療機関には風評被害等の実損が生じる。その場合には、行政当局に責任が生じることを自覚し、むやみな実施は控えていただきたいこと。

 (C)医療機関に対して指摘した改善指示事項は、医療機関への周知の意味からも関係の団体に情報提供していただきたい。

 これに対し、当局からは、医療機関側からの申し出があれば録音等も拒否はしない。対象医療機関の選定にあたっては、慎重の上にも慎重を期して行い、事故のないように行いたい。事後の情報提供についても随時行っていきたい旨の回答があった。

 生保医療を巡っては、被保護者の命と人権を踏みにじるような事案が、近県で発生した例もあり、その適正な実施は社会的にも求められているところである。協会としては、被保護者と指定医療機関双方の権利保障と適切な医療提供の実現に向けて、生保個別指導制度の改善運動に今後も取り組んでいく所存である。

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