生保指定医療機関への指導を強化  PDF

生保指定医療機関への指導を強化

国が直接指導 健保の指導・監査にもリンク

 10月17日、厚生労働省が国会に提出した生活保護法改正法案は、先の通常国会で審議未了により廃案となった同法案と内容は同じだ。

 国民の視点では、生活保護の申請時に書類提出を義務付け、制度を実質的に使いにくくするものだという批判もあるが、ここでは医療扶助指定医療機関に対する行政指導、立入検査の強化や、健保制度の指導、監査との関わりについて見ておきたい。

行政指導・立入検査が大きく変化

 まず、行政指導だが、現在、指定医療機関は「都道府県知事(政令指定都市の市長含む。以下同じ)の行う指導に従わなければならない」とされているが、実施者に厚生労働大臣が加わる(第50条)。具体的には、地方厚生(支)局および都府県事務所が単独で医療扶助だけに絞って指定医療機関を指導する他に、健保に関する指導を行う際に、同時に医療扶助受給者のレセプト・カルテも選定して指導することや、都道府県が行う医療扶助指定医療機関に対する指導に参加して共同で指導する等の方法が可能になる。

 立入検査(健保でいう監査)の方法も大きく変わる。従前は、「診療内容・報酬請求の適否を調査するため」とされていたが、これが改定され「医療扶助に関して必要がある」と認められれば検査が可能になる。また、当該指定医療機関への行政の立入しか規定されていなかったが、行政へ出頭させて検査できることが明記された。さらに、管理者だけでなく、開設者、管理者以外の医師、薬剤師その他の従業員も、検査の対象者とされ、出頭が求められる。加えて、すでに指定を辞退した医療機関および従事者も、「必要がある」とされれば検査が可能となる(第54条)。

取り消された場合は健保の指導・監査

 指定取消についても、検査結果との関わりが強化される。具体的には、健保法第80条と同様の取消要件が盛り込まれ、不正請求、検査時の資料提出・提示の拒否や虚偽報告、検査時の答弁拒否・虚偽答弁があった場合は指定取消や一定期間の停止ができるようになる(第51条)。また、再指定について、取消処分を受けた場合は、最長5年間は再指定が受けられない点は健保と同様の取り扱いへの変更だが、処分決定前に指定を辞退した場合も最長5年間は再指定が受けられなくなる点は、健保の取り扱いと異なる。なお、保険医療機関でなくなった場合は、自動的に医療扶助の指定は失われる(第49条の2)。

 注意すべきは新規追加された(雑則)だ。検査や取消処分の実施者は、国立の医療機関を除き依然として都道府県だが、指定取消や一定期間の停止をした医療機関に対して、都道府県知事が検査を通じて健保の取消要件に該当すると疑うに足る事実があった場合は、地方厚生(支)局および都府県事務所に通知することが義務化される(第83条の1)。これにより、医療扶助の指定を取り消された医療機関は、必ず健保の指導、監査の対象となる。

拙速な指導、検査の強化には反対

 今回の法改定により、国、都道府県、政令指定都市の市長の行政指導、立入検査、指定取消の権限が強化される。従前、指定医療機関の義務は「懇切丁寧に被保護者の医療を担当しなければならない」ことのみであった。個別指導は「被保護者の処遇が効果的に行われるよう福祉事務所と指定医療機関相互の協力体制を確保することを主眼」として行われ、検査は「つとめて診療に支障のない日時を選び」、「検査にあたる職員は、公正かつ懇切丁寧な態度を保持すること」が運営要領で定められていた。被保護者への医療提供が第一に考えられ、医療機関への配慮もされてきた医療扶助のあり方が大きく変更される可能性がある。さまざまな問題を抱える受給者の中には、窓口での対応に困る患者もある。法改定により、指導、検査が不必要に強化されれば、自ら指定を返上する医療機関が出てくる可能性もあり、医療扶助の円滑な提供に支障を来す可能性も否定できない。本当に健保同様の厳しい指導、検査が必要なのか、現在の健保の指導、監査自体が国民の医療を受ける権利を脅かすほどに厳しいものとなっていないか検討すべきだ。今回の拙速な法改定には、以上の点からも反対である。

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