環境問題を考える(118)  PDF

環境問題を考える(118)

深刻な汚染実態の隠蔽を許すな!原発再稼働の企みを許すな!

 未曾有の大地震と津波を機に、福島原発の大事故が起こり、大量の放射能が福島を中心にまき散らされて、すでに2年3カ月になる。福島第一原発事故は、1986年に起こったチェルノブイリ事故と同じ「レベル7」の大事故であり、地震と津波と水素爆発の結果、ぼろぼろに瓦解した原子炉の完全な冷却の継続や、安全な廃炉への見通しなども全く立っていない。毎日の膨大な冷却水は地下水を、海を放射能で汚染し続けている。

 政府や東京電力は、事故当初から、「直ちに人体に影響を及ぼす数値ではない」などと詭弁を弄して、放射能汚染の実態を隠蔽してまわっていたが、今も同じである。新聞の片隅に掲載されている放射能大気汚染度は、2年以上経った今も、福島市のみが他府県の県庁所在地のそれと1オーダ(10倍)は高い状態が続く。

 「地球の子ども新聞」(アース・チャイルド社:2013年3月第133号)の放射能汚染マップを読んだ。文部科学省による航空モニタリング調査などをもとに作成された地図だが、年1mSv以上の汚染地が北は北海道から南は沖縄県石垣島にいたるまで日本列島全域に散在すること、とりわけ福島県を中心に北関東の広範な地域が、チェルノブイリの基準であれば年間12mSv以上の強制避難ゾーンや、移住の義務ゾーンにあたる被曝線量年間5〜12mSvの放射能汚染地帯であることを知り、愕然とさせられる。福島をはじめ、東北・北関東の多くの人々は、子どもたちは、このままでは長期にわたりチェルノブイリなみの深刻な健康被害を受ける危険にさらされ続けることになる。

 チェルノブイリでは、事故の10年後から、被曝した親から生まれた子どもたちに甲状腺肥大や心疾患、消化器系の慢性疾患や免疫不全などが著しく増加し、25年後に発表された「ウクライナ政府報告書」では、健康被害は80%もの子どもたちに及んでいる。チェルノブイリでは、事故後、年0・5mSv以上の汚染地域に暮らす住民には、放射線による染色体異常の発生を危惧して、血液検査が実施されている。

 小生の外来にも、昨年夏以来、福島から自主避難してきた小学生が訪れてくる。A君は、初診時、長年のアトピー性皮膚炎に悩み、ステロイド依存状態であったが、ダニ抗原などの回避下にステロイドを離脱し、今では幸い皮膚の状態も顕著に改善してきた。しかし、郷里の友達とも離ればなれで、望郷の思いは募る。A君は県の健康リスクアドバイザーである長崎大学教授の山下俊一氏(13年4月1日付で長崎大学へ復職し、同大学副学長就任。同時に福島県立医科大学副学長は非常勤となる)の、「100mSvまでは安全」「放射線の影響は、実はニコニコ笑ってる人にはきません。クヨクヨしてる人にきます」などの無責任な言動に疑問を感じ、チェルノブイリの子どもたちの現地での救援医療に身を捧げ、今は、長野県の松本市長をされている、小児外科医でもある菅谷昭氏から生の現状報告と警告を聞き、悩んだ末、滋賀県に自主的避難をしてきた家族の一員である。無論、おとうさんは福島に残って働かざるを得ず、長い別居生活を余儀なくされている。しかも自主避難者の家族には十分な健康管理も、生活「保障」も、医療保障も、経済的支援も全く用意はされていない。政府による、福島をはじめとした子どもたちや人々の生活と健康の、重大な危機の隠蔽を許してはならない。安全な生活を営む権利の侵害と保障の放棄を許してはならない。

 こんな中で、平然と「原発再稼働」や「原発輸出」を公言し、推進しようとする非人間的な政治などどうして許されようか。さらに、平和と文化的な生活の権利保障をうたう、平和憲法の根幹を覆そうとする反動的な改憲のもくろみにも心底からの怒りで応えなければならないと思う。

(環境対策委員・島津恒敏)

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