理事提言
政策部会理事 飯田哲夫
反知性主義
最近の政治の方向や政治のありように不安を感じます。どうしてこんなことになってしまったのか、そんな思いを抱いているとき、「反知性主義」という言葉を知りました。これに関するまとまった本はあまりないようで、まとまった論考も見つかりませんでした(ホーフスッター著『アメリカの反知性主義』は未読)。断片的に読んだものを少しまとめてみました(出典省略)。
反知性主義とは「本来は知識や知識人に対する敵意であるが、そこから転じて国家権力によって意図的に国民が無知蒙昧となるように仕向ける政策」と定義しているものもありますが、どうもすっきりしません。「およそこの世の中に知性の不平等が存在し、この不平等がより実際的な富や権力の不平等に関連する限り、社会に潜在する反知性主義の心情は抹殺することが出来ず」、ホーフスタッターは「知的な生き方およびそれを代表するとされる人々に対する怒りと疑惑」と定義しています。
「そして政治権力はこの心情を政治資源として取り込もうとし」、「現在の様々な政治的問題を古典的な右と左という図式では分析できず、そこに反知性主義がはびこり、国家中枢を掌握、左右を問わず知的であろうとする意思をなぎ倒している」と捉えています。更に現在の日本は、「高い知力を持っている権力者が大衆の反知性主義的感情を操作する図式が成立せず」「権力者自身が知的でなく、大衆に蔓延した反知性主義的感情と一体化し」、ついには「政治・経済・ジャーナリズムといった社会諸領域の支配層全体が反知性主義によってみたされるという事態が生じつつある」と分析しています。
また反知性主義は「客観性や実証性を軽んじ、自分が理解したいように世界を理解し」「異なる意見を持つ他者との公共的対話を無視し」「ひとりよがりな決断を重視し」「自分が理解したいように世界を理解しようとするため、不適切な発言をしたという自覚が出来ず、聞く側の受け止め方に問題があると認識してしまう」などの特徴が指摘されています。
反知性主義の台頭は「ポピュリズムが広がって来たためだろう。ポピュリズムの政治とは大衆の感情をあおるものだから」とすれば、我々はまず冷静にこの状況に巻き込まれないよう気をつけるべきでしょう。