理事提言/死因調査には解剖を求めよう  PDF

理事提言/死因調査には解剖を求めよう

医療安全対策部会 宇田憲司

 医療従事者が提供した医療に起因(その疑い含む)する死亡(死産含む)で、その管理者が死亡を予期しなかった医療事故が発生した場合は、遅滞なく医療事故調査・支援センターに届け出る必要があり(医療法第6条の10)、管理者は、速やかにその原因を明らかにするために必要な調査(医療事故調査)を行わねばならない(法第6条の11第1項)。
 医療提供に同機して死亡が発生した場合は、医療に起因していなくても、起因が疑われる場合を含むことから調査は不可避となろう。死亡の原因については、(1)自然環境内や内的な自然経過内における偶発事象(2)故意によるもの(3)不可抗力による併発症(4)不注意による医療過誤—など、原因・死因の究明には診療経過の検討とともに現場の検証などに関わる一定の技術が必要となる。
 死亡事故は、重症患者の場合や侵襲の大きい医療処置や危険性の高い薬物・装置の使用に関連して生じる場合がより多く考えられ、入院治療を要する経過を含めより規模の大きな医療施設内での事象となりやすい。しかし、規模の小さな医療施設であっても、また、今回の調査制度には介護保険施設は含まれていないが、入院中や手術後の不良な医療経過のみならず、入浴中での死亡事故や、リハビリテーションや歩行時などでの転倒や高所よりの転落による頭部打撲後でのくも膜下出血死などでは事故の様態をみて、故意によるものの除外も必要となろう。
 通院治療では、例えば、頚椎・腰椎牽引治療中や点滴静脈注射の途中において、急な胸苦しさを訴え、上級医療機関への転送が実施できぬままに死亡に至ったような場合においては、院内では処置までの経路や注射液の準備や投与開始ころまでの経緯は調査できるとしても、どこまで真の死因・病因の究明が可能かは疑問なしとならない。頚椎・腰椎牽引治療中では、(1)心筋梗塞や解離性大動脈瘤などの発作であるのか、点滴静脈注射中では、(2)毒物の混入や、自宅等で青酸カリカプセルなどの毒薬を服用させられ溶解・吸収の時期に至ったことなどによるのか、(3)アナフィラキシーショックなどにより、肺胞や細気管支などに生じた炎症性分泌物による肺臓内窒息死であるのか、(4)高濃度でのリドカイン、KCl製剤、塩酸ドパミンなどの静脈内投与後の死亡や消毒剤混入(1999年2月11日の都立広尾病院ヒビテングルコネート誤注入死亡事件など)、経鼻栄養剤の静脈内投与回路への誤接続の過誤や異型輸血などもある。解剖によっても死因を全て解明できるわけではないと言われるものの、9割程度は可能とのデータもあり、承諾解剖・行政解剖・病理解剖・法医解剖などの行われ易い社会的基本制度の充実が求められる。また、後者は多く司法解剖でなされるが、業務上過失致死傷害(刑法第211条)のみならず、殺人(法第199条)など故意によるものをどう鑑別するのかの問題もあり、警察署への届出が必要となる場合の見極めが必要ともなろう。

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