理事提言/政策部会 飯田哲夫  PDF

理事提言/政策部会 飯田哲夫

「おい、こら」「向こう三軒両隣」

 「おい、こら」「向こう三軒両隣」、いずれも戦前にはよく知られていた言葉である。前者は警官が市民に向かってその行為を咎めるとき(あるいは単に呼びかけるとき)に普通に使われていた言葉で、市民にとっては(主権在民、人権などの概念を持たない)国家権力を身近に感じる怖い言葉であり、戦前の持つ暗い一面を示す言葉でもある。

 さて特定秘密保護法は、国の安全保障にかかわる情報の取り扱いに関する法律であるが、国による恣意的解釈、恣意的運用が可能なため、市民生活全般に網がかぶせられる恐れがあるとともに、違反に対する重い刑罰は、報道機関をはじめ、市民の言論の自由などに、自らの萎縮をも含め、制限が及ぶ恐れがある。また戦争は国を守るために行われ、国民を守るためのものではないから、今般国会に上程された安保(戦争)法案は、憲法違反であるばかりでなく、その成立は国防、国際支援の名のもとでの言論の自由をも含めた様々な制限が市民に課せられてゆく恐れがある。 

 次に後者「向こう三軒両隣」は近隣の助け合いを奨励する言葉であるが、しかし一方、国家権力に対する不満・異議申し立てなどに対する相互監視の一面をも持っていた。とはいえ近隣の助け合いは地域社会が機能していた頃はもちろん、現在でも大切なことである。しかし、国が行う社会保障という観点からは問題も含まれる。

 国は社会保障充実よりは、新自由主義のもとで国・大企業が国際競争に打ち勝つためにと、医療を含む社会保障への国・大企業の負担を軽減することに力点を置いてきた。費用に視点を置いた医療から介護への移行、そして特にその介護領域における自助・互助・共助の強調。「向こう三軒両隣」や、自助・互助などは、人が自然に持つ思いであり、またそれにもとづく行動である。しかし社会保障は国家の義務として全ての国民(日本に住む全ての人)に行わなければならないものであり、それゆえに公助が第一であり中心であらねばならない。そのことから目をそらす目的で、人の持つ優しさを逆手に取って、「向こう三軒両隣」などと使うのを許すわけにはいかない。

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