理事提言/医療事故調査では専門医による原因調査体制を!  PDF

理事提言/医療事故調査では専門医による原因調査体制を!

 
医療安全対策部会 宇田憲司
 
 心房中隔欠損症および肺動脈狭窄症の12歳女児は、2001年3月2日、東京女子医大附属病院で人工心肺下に同根治術を受け、脱血不良から脳障害を生じ同月5日に死亡した。
 手術は、9時50分開始され(第一助手X医師)、人工心肺はY医師が操作した。上大静脈および下大静脈に脱血カニューレが、上行大動脈に送血カニューレが挿入され、11時55分送血ポンプを回転させ、上下大静脈の一方を鉗子で閉塞して脱血を確認し、12時2分鉗子を外したが、静脈貯留槽内の液面上昇は50〜100で通常の400程度に比し少なく、100回転まで上げた。その旨Xらに伝え、陰圧吸引回路の大気開放ラインを鉗子で閉塞してレギュレイターを作動し落差脱血法から壁吸引による陰圧脱血法を行った。肺動脈弁形成術を行い、右心室チューブの吸引ポンプの回転数増加を指示され、40回転から段階的に100回転に上げた。心房中隔欠損孔を縫合し、肺動脈形成術の後、三尖弁逆流試験の直前頃、脱血管には気泡を含む空気が充満して血液がなく、人工心肺による脱血がなく、空気が脱血管から右心房内に逆流した。これは、13時49分に血液ガス検査をしてしばらくの頃で、B技士が大気開放ラインを閉塞していた鉗子を外すと、「シュッ」と音がして血液が回路内に流れ脱血でき、その間10分ほど脱血不能であった。同試験を行い、16時50分手術終了した。
 なお、遅くとも14時過ぎ頃には顔面の著明な浮腫と鼻出血があり瞳孔が散大していた。14時10分から低体温手術とし、中心静脈圧は、12時2分〜13時1分に0〜マイナス3、13時9分〜14時35分ではプラス7〜10であった。人工心肺の片付け時には、静脈貯留槽・心内貯留槽とレギュレイターとの間にあるガスフィルターが濡れ空気を通さない状態であった。
 同大学は、学内外の心臓外科専門医は含めず、学内の他科の教授3人を委員とする内部調査委員会に、実地検分・再現実験各1回を加えて調査させ、死因は脱血不能による脳の鬱血・障害とし、その原因は吸引ポンプの「高回転が基本」として、回転数を上げた医師の過失と評価し、ガスフィルターへの水滴付着は促進因子とした。報告書を遺族にも交付し、遺族は報道機関に情報提供した。
 02年6月28日、X(証拠隠滅罪)とY(業務上過失致死傷罪)は逮捕された。Yは、上記特性のある人工心肺の操作に際し吸引ポンプを高回転にあげ継続した過失により回路内の陽圧化から脱血不良・不能を発生させ脳循環不全から死亡させたとして起訴された。裁判所は、再現実験から高回転での陽圧化は限定的で、水滴などの吸着によるガスフィルター閉塞が原因で、当時は知られておらず予見可能性がなかったとして、Yを無罪とした(東京地判平17・11・30)。控訴審では、脱血不良・不能は上大静脈の脱血カニューレの挿入状態の不具合によるとして、無罪が維持された(東京高判平21・3・27)。
 心臓外科関連3学会は、陰圧吸引補助脱血法の安全性を検討する委員会を立ち上げ、実験・検討し、水滴などの吸着によるガスフィルター閉塞が回路内を陽圧化し脱血不良・不能となる原因とし、03年3月フィルター不使用を勧告した。
 内部調査委員会は、専門的知識に乏しく、「科学的でない」と批判された。

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