理事提言/医事紛争予防は分かりやすい言葉で説明することから

理事提言/医事紛争予防は分かりやすい言葉で説明することから

医療安全対策部会 西村俊一郎
医療安全対策部会 西村俊一郎

 日常診療において、医療行為の結果が得られない、あるいは予想に反して悪かった場合、そこで患者と医療機関側に人間関係のもつれが生じればしばしば医事紛争へと発展する。しかし、それが直ちに医療機関側に賠償責任があるということにはならない。実際、京都府保険医協会「医師賠償責任保険処理室会」で取り上げられた案件のうち医療機関側に過誤が認められないケースも多い。医療事故の原因が医療機関側の診療上の注意義務等の違反によるものでなければ無責と判断される。

 医事紛争の発生については、説明不足、同意なき医療行為、好結果の安易な保証、カルテの記載不備などを含んだインフォームド・コンセントの実行が適切になされていなかったということが大きな要因になる。ところが、医療機関側としては十分に説明をした、その上で同意も得られたと考えているにもかかわらず、患者側からクレームを受けることが時としてある。「そんなこと聞いていない、説明不足だ」など。そのような場合、言いがかり的なクレームであることも確かにある。しかし、インフォームド・コンセントの実行にあたっては、分かりやすい言葉で説明し、患者側が本当に理解しているか確認しておくことも重要である。

 国立国語研究所(東京都立川市)は、よく使われるのに患者が分かりづらい医師の言葉100語を選び、来春までに言い換えや分かりやすく伝えるための指針を公表するという。理解しづらい言葉に選ばれたのは、予後、炎症、浸潤、合併症といった用語や、喘息、心筋梗塞など普段よく使う病名もあげられている。これらの言葉で混乱が起きた例では、白血病治療で寛解したと説明したのを治癒したと捉えられたり、治療により起こりうる合併症をミスと思われたケースもあったという。こちらがわかっているつもりが相手には伝わっていないことは日常よく経験するが、ちょっとしたボタンの掛け違いでも医療の現場ではそれが医事紛争へと発展する可能性がある。わかりやすい説明を心がけたいものである。

【京都保険医新聞第2648号_2008年7月21日_4面】

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