特別寄稿 薬のネット販売解禁を認めた最高裁  PDF

特別寄稿 薬のネット販売解禁を認めた最高裁

莇 立明(弁護士)

 大衆薬のインターネット販売を一律に禁止するのは違法だとする最高裁判決が出て反響を呼んでいる。判決は、行政が明確な法的根拠のないままに安易に省令に頼り、薬販売に大幅な制限を加えていることを戒しめたものだ。新聞は「憲法が保障する職業選択の自由を尊重した判断といえる」「国民の権利を制約したい行政に警鐘を鳴らした」と評している。

 ちょっと待ってほしい。人気の痛み止め薬「ロキソニン」。これは大衆薬で薬局で自由に買える。しかし、確かに改正薬事法による省令で、副作用リスクの高い薬(第1類)として通信販売を禁止し、薬剤師による薬局での対面販売を原則としている。しかし現実、薬局の玄関には「ロキソニン」の幟旗がひるがえり自由に買える。薬剤師のチエックは? 「喘息などありませんか」と尋ねているか。虫歯で歯科に行けば、痛み止めとして何も言わずに「ロキソニン」が処方される。これが実際だろう。どこにも消費者である国民の権利は制約されていない。消費者の権利を言うなら「副作用情報」をもっと国民に広く提供すべきだ。医薬品の添付文書の警告欄に重大な副作用として、「死亡例が過去何例あった」かを記載すべきだ。

 最近、ロキソニンを服用して生命を落とした人の裁判があった。アスピリン喘息の持病のあった人だが、処方した医師の問診の有無が問われた。製薬メーカーに過去の死亡事故の数、原因などを問い合わせてみると軽度の副作用事例は多数上がってきたが、死亡事例となると口をつぐんで明らかにしない。死亡事故が起きていても、トラブルとなると製薬メーカーは薬剤の製造・販売自体には問題はなかったとし、投薬した医師や薬剤師の注意義務違反にして逃げるだけ。裁判は、患者遺族と医師の争いに矮小化されてしまう。わずかに医薬品被害救済基金制度の恩恵を示めされるのみである。肺がんの薬イレッサに関する裁判は、患者が投薬した医師を被告にせずに、製薬資本と薬を認可した国を相手とした正面対決の訴訟であった。投薬した医師や医療機関は投薬証明書を出して訴訟に協力したが、それ以上に製薬メーカーの供給責任を俎上に載せることはできなかった。製薬資本と国は製造物責任法や国家賠償法という幾重にもガードされた責任回避の法律の保護を受けており、そのような壁をバックにする相手に対しては、患者(国民)も医師(医療機関)も対等に争える武器は持っていなかった。スタートから不利な戦いであった。現実に提起されている薬害裁判は、このようにして薬を飲んだ患者と投薬した医師(医療機関)の間だけの損害振り分けの一般民事裁判としてしか争われていない。これでは薬害の根本解決には繋がらず、何らの教訓も引き出せないだろう。

 喘息のある人には痛み止めいわゆるピリン系消炎鎮痛薬は危ない。錠剤・飲み薬のみならず、貼り薬、湿布薬でもショックを起こすおそれがある。アスピリン喘息が危険である。薬の効能書をみると「アスピリン喘息患者は禁忌」と朱書してある。しかし薬の効能書をよく読まない消費者がほとんどだ。喘息があると1錠飲んだだけで死んだ例もあるよと教えてくれる医師、歯科医、薬局がどれほどあるだろうか。

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