消費税「社会保障目的税化」は何をもたらすか/社会保障・税一体改革  PDF

消費税「社会保障目的税化」は何をもたらすか/社会保障・税一体改革

 社会保障・税一体改革成案(以下、成案と表記)は6月30日、政府・与党社会保障改革検討本部で決定され、翌日閣議報告された。8月12日に公表された「当面の作業スケジュール」は、「医療・介護の基盤整備の法整備」に関する「基盤整備一括法(仮称)」を、診療報酬・介護報酬同時改定を踏まえ、2012年を目処に法案提出。「保険制度改正」に関する「医療保険・介護保険関連改正法案」を12年以降「速やかに」法案提出、順次実施する等、今後の作業工程を示している。以上のような医療・介護、あるいは年金制度改革や子育て支援等、「社会保障制度改革」と同時に、「税制改革案」に関しても、12年度中の法案提出を明記する。

社会保障・税一体改革の当面の作業スケジュール(医療・介護・番号・税制部分を抜粋)

▼4%が財政赤字の穴埋め等、社会保障強化は1%
▼「消費増税=社会保障の財源確保」はまやかし
▼目的税化で限定される社会保障(公費)の財源
▼消費税だけを社会保障財源にしてもよいのか!?

消費税の社会保障目的税化を打ち出した「成案」

 社会保障・税の一体改革案で、個別の制度改革案の評価と同時に、どうしても見ておかねばならないのが社会保障財源としての「税」問題である。

 政府・与党は、成案「3社会保障・税一体改革の基本的姿」「1社会保障の安定財源確保の取り組み」の項で、「消費税収の社会保障財源化」を明記した。次のように書かれている。「消費税収については」「全て国民に還元し、官の肥大化には使わない」「消費税を原則として社会保障の目的税とすることを法律上、会計上も明確にすることを含め、区分経理を徹底するなど、その使途を明確化する」。

 ここで強調されているのは「消費税はすべて国民のために使う」ということであり、同項後段で提起する「まずは、2010年代半ばまでに段階的に消費税率(国・地方)を10%まで引き上げ」ることへの理解を、国民に対して求めていると読み取れる。

 「使途の明確化」自体を否定する人はいない。連日、自国の財政赤字が報道され、「財源がない」事情を刷りこまれているため、「消費税増税は喜ばしいことではないが、社会保障に限って使われるのであれば、止むを得ない」と考える国民は恐らく少なくない。また、消費税の引き上げにより、社会保障財源が拡大し、制度充実が可能になると考えている人も多いだろう。

 しかし、成案のいう「消費税の目的税化」について、「使途」を社会保障に限定するという「歳出」面からのみ捉えては、その本質を見誤ることになる。紹介した文中にある「区分経理」という言葉が指すのは、即ち、社会保障財源とは消費税のことであり、それ以外の税源は社会保障に投入しないと言っているに等しいからである。

 消費税率引き上げで社会保障財源が拡充するのか。

 社会保障目的税化で社会保障制度は充実するのか。

 この2つの視点から、以下、今回の成案における「消費税の社会保障財源化」を中心に解説しながら、その本質的な問題点を検討したい。

消費税「社会保障目的税化」は何をもたらすか

現状でも消費税は「高齢者三経費」に限定

 消費税収の「使途」についていえば、周知のとおり、1999年度予算の「予算総則」※1以降、消費税の収入が充てられる経費の範囲はすでに社会保障目的に限定されている。ここでいう「社会保障」の対象は「高齢者三経費」と呼ばれる「基礎年金」「高齢者医療」「介護」の公費負担部分である。

 財務省が示す2011年度予算では、「消費税収」は総額12・8兆円を見込む。

 「消費税収」と一言でいっても、その内訳は「消費税」と「地方消費税」で構成され、前者が4%10・2兆円、後者が1%2・6兆円である。前者の10・2兆円の消費税のうち29・5%分、そして地方消費税全額を合計して43・6%部分5・6兆円が「地方分」として、各地方自治体の一般会計となる。残りの56・4%7・2兆円が「国分」となり、先ほど述べた「高齢者三経費」に全額が使われている。

 もちろん、高齢者三経費をすべて消費税で賄っているわけでなく、今年度10兆円分の税収不足は、他の税源を投入している。この消費税収だけで賄いきれない部分を、国はなぜか「スキマ」と呼ぶ。

5%引き上げで高齢者三経費は賄えるが

 成案では、目的税化・税率引き上げと同時に、消費税を充てる「高齢者三経費」を、「社会保障四経費」に拡充することを打ち出した。これにより、目的税化された消費税の使途は「基礎年金」「介護」「子育て支援」「高齢者医療も含めた医療保険給付」となる。

 対象を拡大すれば、必要財源も拡大する(図1)。しかし、図1にあるとおり、5%から10%に引き上げることで、高齢者三経費分※2(2015年)はすべて消費税収で賄える試算になっているものの、社会保障四経費に拡大した部分は「スキマ」として残されている。このことは何を意味するのか。

図1 社会保障の安定財源確保の基本的枠組み

引き上げられる5%の内訳は

 ここで、引き上げられる「5%」の内訳を見ておきたい。

 成案に添付された資料(図2)は、「5%」の内訳を大きく分けて3つに分けている。

図2 社会保障の安定財源確保と財政健全化の同時達成

 (1)「消費税引き上げに伴う社会保障支出等の増」1%、(2)「機能強化」3%、(3)「機能維持」1%である。

 (1)は、税率引き上げで物価スライド等によって社会保障費が増加、政府の物資調達に関する費用の増加分に相当する、(3)は、現在の社会保障機能を維持する必要経費である、(2)の内訳は次のようなものである。[1]制度改革に伴う増1%、[2]高齢化等に伴う増1%、[3]年金2分の1で1%である。

 これを見れば、自然増分や基礎年金の国庫負担の引き上げを決めた年金改革法(2009年)による国の義務的経費を除くと、実際の「改革」財源に充てられるのは、(2)−[1]の1%(2・7兆円)相当部分のみと読み取れる。

 すなわち、内訳のうち、(2)−[2]、(2)−[3]、(3)の合計3%相当は、消費税率引き上げや制度改革と無関係に、もともと国に負担が義務付けられた経費である。この3%部分の財源を税率引き上げで確保することで、他の税源からの支出が「浮く」。浮いた財源はどこへ使われるのかといえば、財政赤字解消である。

 消費税率「3%相当」分は、2010年6月22日に閣議決定した「財政運営戦略会議」に基づく財政健全化目標による「2015年までのプライマリーバランス赤字の半減」に必要な金額を税率に置き換えたものと合致する。つまり、今回の一体改革を税・財政問題から見れば、(1)政府の目標はプライマリーバランスの赤字解消が第一義であり、(2)それに必要な税源を消費税増税に求めると、国民アレルギーは激しいので(政権が倒れる)、(3)その緩衝剤として、敢えて消費税を社会保障財源化する、そして、(4)税率引き上げで浮いた財源をプライマリーバランス赤字削減に充てる。これが、一体改革の本当の姿である。

目的税化と「区分経理」がもたらすものは

 また、成案の問題点はそれだけではない。消費税を社会保障目的税化すること自体の問題である。

 冒頭にも述べたとおり、「使途の明確化」といえば響きはよい。消費税の負担に苦しんでいたとしても、「赤字は解消せねばならない」と漠然と信じ、増税されてもそれが確実に社会保障に使われるのであれば、やむをえないと考える国民は多い。

 しかし逆の視点から見れば、消費税を目的税化して「法律上も会計上も明確化」≒「区分経理」するということは、消費税以外の税源を社会保障に充てない、という宣言に他ならない。それを露骨に示したようなスライドが、成案には添付されている(図3)。

 そこでは、「社会保障は消費税で」「その他の支出はその他の税源で」と、明確な「区分経理」の導入が示されている。社会保障四経費に拡充した場合の「スキマ」部分には、上向きの矢印が書かれ、社会保障財源の拡充には消費税率引き上げ以外の選択肢が存在しない、ということを示している。こうすれば、国にとっては、対象経費が4経費になろうが10経費になろうが、痛くもかゆくもない。すべて、その税源は消費税として国民自身が負担するからだ。

成案は撤回し、トータルなビジョンを

 以上のように、成案に示された消費税の社会保障目的税化は幾重もの問題点を抱えている。(1)今回の消費税率引き上げで社会保障財源が大幅に拡大するわけではない、(2)社会保障財源を消費税収に限定すると社会保障給付の増大や「機能強化」が直接税率引き上げにつながる、(3)従って税率引き上げ回避のためには、例えば公的保険の給付範囲縮小等が行われる可能性が高い。

 さらに、より根本的な問題点を指摘したい。それは日本のような社会保険制度を中心とした社会保障制度を持つ国で、消費税だけにその財源を求めることの是非である。消費税は大衆課税であり、そこから考えれば、例えば市町村国保なら、公費負担部分・保険料の全財源の大部分を被保険者だけが負担することになってしまう。加えて窓口負担もある。それが本当に求められる社会保障の姿だろうか。福祉国家と呼ばれる世界の国々では消費税率自体は高くとも、一部負担金を求めないなど、基本的な制度のあり方に大きな違いがある。

 即ち、今回の成案にもっとも欠如しているのは、国家としてどのような社会保障制度を構築するか、というトータルなビジョンとそれにふさわしい財源論である。

 協会は、一体改革成案自体の撤回を求める。その上で、この国の形を根本から見直し、真に患者・国民のための医療・社会保障制度を実現しうる、「福祉国家」をめざすよう訴える。

 ※1 各年度の国家予算冒頭に示す総括的規定であり、国会議決の対象である

 ※2 2011年度の「高齢者三経費」の金額には地方負担分も含まれているため、財務省の示す数字と違いがある。

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