消化器診療内容向上会レポート  PDF

消化器診療内容向上会レポート

 消化器診療内容向上会を京都消化器医会、京都府保険医協会、EAファーマ株式会社、エーザイ株式会社の共催により4月2日に京都平安ホテルで開催した。参加者は59人。今回は、医師であり弁護士の長谷部圭司氏(北浜法律事務所・外国法共同事業)による「医院内で発生するトラブルへの対処法」について講演があった。

医療訴訟に備えトラブル回避の知識身に着ける

 まず長谷部氏から基本的な講義があった。「契約の成立に必要なものはお互いの意思の合致」であり、「診療契約」も同様で患者と医師間の意思の合致が必要というのが前提である。

 また、インフォームドコンセント(IC)=説明ではなく、あくまでも同意という意味であるため、医師がICすると誤解をしているが、ICができるのは医師ではなく、同意をする患者である。

 そして、診療契約の締結時やICを得る場面では、患者の意思能力が必要であり、例えば認知症の患者の場合には、患者本人だけの判断では決定できない。

 これらの具体的な事例について以下、長谷部氏から症例提示があった。

 糖尿病患者のHbA1cの上昇に対し、主治医が説明の上での投薬の増量に対し、患者がそれを拒否した場合、患者のICが得られていない以上、主治医の一方的な投薬増量は認められない。

 意思表示ができない認知症患者のケース。主治医がこれまで治療していた高血圧症に対し血圧コントロールが不良の場合、これまでの診療契約が成り立っていた疾患に対しての治療なので、投薬変更は認められる。それに対し、腹痛に対する胃内視鏡検査といった診療契約を結んでいない新たな疾患に対する処置・治療は認められず、新たに診療契約を結んだり、ICを取得したりする必要がある。このような場合の認知症患者への対処法は二つある。(1)医療事項代理人(長谷部氏が提唱)を定めてもらう。(2)家族の代表者(カルテでいうところのキーパーソン)を作ってもらう。

 その後、大塚弘友消化器医会副会長と藤田祝子医会理事から症例提示があり、フロアからも複数の質問があった。

 診療所内での胃内視鏡検査で生検後にタール便が出現し、病院に緊急紹介され、出血部位に対しクリッピング処置を行い入院となり、数日後に軽快退院となった。後日、患者から治療に要した費用と数日の休業した分に対する請求があった場合。

 国のがん対策で行っている胃透視による胃がん検診(行政からの依頼で医師会に読影が委託され、複数医師によるダブルチェックを行う)において、がんの見落とし症例の責任は誰にあるのか。

 診療所からCTを他施設に依頼した際、その施設の放射線科の読影に問題があった場合、診療所の責任は問われるか。

 以上の症例提示や他の質問に対し、それぞれに法律的見解を述べてもらい活発な議論に至った。

◇   ◇

 いったん医療訴訟になると、時間を費やすのみならず、精神的なストレスを抱えることになる。医療訴訟を恐れると医療に携わる医療従事者に萎縮が生じる。それを避けるためにも、医療従事者は医療訴訟に対する知識を身につけること、具体的には、説明義務やカルテへの正確な記載が重要であることを学んだ。

(下京西部・藤田祝子)

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