構造改革・医療費抑制路線を継続 高齢者医療制度改革会議が最終案
後期高齢者医療制度廃止後の新たな医療制度構想を検討してきた厚生労働省の高齢者医療制度改革会議は12月8日、第13回会合を開き、「高齢者のための新たな医療制度等について(最終とりまとめ)案」(以下、最終案)を公表した。同会議は20日に予定される最終会合で同案を確認し、政府は来年の通常国会での法案提出を目指す。
新制度の基本的枠組みは、後期高齢者医療制度を廃止して地域保険を国保に一本化。年齢に関係なく被用者保険被保険者並びに被扶養者は被用者保険に加入(国保組合も)、それ以外は全員が市町村国保加入とする。その上で、一定年齢以上の国保被保険者の医療費を都道府県単位化、世代間・保険者間の財政調整を行う。高齢者にかかる医療費は、後期高齢者医療制度における医療費抑制の中心システムである、「公費5:現役世代支援金4:高齢者自身の保険料1」法定化による「医療費キャップ制」を存続する。高齢者医療制度改革会議は、以上のような制度骨格を、既に去る7月23日、「中間とりまとめ案」(以下、中間案)で示してきた(本紙2754号)。
今回の最終案は、中間案時点では明確になっていなかった諸点について、一定具体的に示した。
(1)中間案では「少なくとも75歳」としていた、国保被保険者に係る医療費の都道府県単位化の対象年齢を「75歳」に。(2)「広域連合」か「都道府県」かの調整が難航する「都道府県単位の運営主体」は、「都道府県が担うことが適当」注1。(3)財政安定化基金の財源構成を、現行の後期高齢者医療制度と同様、国:都道府県:市町村を1:1:1とし、給付増加や保険料収納不足への「貸付」等を行う。(4)保険基盤安定制度を創設し、7割・5割・2割の保険料減額制度(均等割部分)適用分の費用を公費負担。一方で、後期高齢者医療制度の特例措置である均等割9割、8・5割軽減と、所得割5割軽減は段階的に縮小。(5)保険料特別徴収(年金天引き)は、希望者に対して継続。(6)「支え合いの仕組み」(財政調整)は、75歳以上の被保険者にかかる医療給付費について、国保・被用者に加入が分かれても加入者数・総報酬に応じた現役世代からの支援金で支える。また、65歳から74歳の被保険者について、現行の前期高齢者医療制度同様の仕組みを設ける。(7)現在1割に凍結されている70歳から74歳の窓口負担割合を段階的に2割化。(8)保険料賦課については、中間案では都道府県単位の運営主体が標準保険料率を定めた上で、市町村に対し運営主体へ納付すべき総額を示し、それに基づき各市町村国保が保険料率を定める仕組みを示していた。しかし、最終案では、全ての市町村が「標準保険料率」に基づき賦課することに変更され、原則的に75歳以上の国保被保険者の保険料が都道府県内で統一される。注2(9)公費負担のあり方については、政府全体として定期的に検討する仕組みを設け、これを法律に明記する。(10)新制度の施行日を2013年3月1日とする。
最終案は、以上のような「75歳以上国保被保険者にかかる医療費の都道府県単位化」を第1段階と位置づけ、第2段階である「国保全体の都道府県単位化」を目指す道筋も踏み込んで記述した。
国保全体の都道府県単位化にあたり、保険料や財政調整のあり方については、今後の課題として具体的な記述を行っていない。しかし、「第1段階の施行から5年後」の18年度を目標に年限を区切った国保の都道府県単位化を初めて打ち出している。その上で、この第2段階の移行までに、各都道府県が「広域化等支援方針注3」を策定し、都道府県のリーダーシップのもと、保険料の平準化に向けた医療費適正化策等に取り組むことを求めた。
この「都道府県のリーダーシップ」の持つ意味を考えると、「最終案」のもう1つの特徴を捉えることができる。
最終案には、「健康づくり、医療の効率的な提供等」と項目が置かれ、小泉医療制度構造改革が生んだ、「都道府県が、市町村・保険者等と協力し、医療費適正化及び関連する3計画(健康増進計画・医療計画・介護保険事業支援計画)を策定・実施することにより、都道府県単位で医療費適正化を進める仕組み」を、新制度においても推進することが明記された。都道府県のリーダーシップにより、圏内の医療費抑制を進めさせる構造改革路線の継続・発展が鮮明に打ち出されたのである。市民の健康、医療提供体制、介護保険サービスのあり方を、「医療費抑制」の具に歪めてしまうこの路線こそ、後期高齢者医療制度をはじめとした医療制度構造改革の本丸であり、新制度が最初に廃棄すべきものだ。最終案がこれをわざわざ記述した事実は、国が構造改革・医療費抑制路線を転換するつもりが毛頭ないばかりでなく、その推進に向けた強い決意を示すものと指摘せざるを得ない。
今後、最終案に基づき、法案提出に向けた準備が進められる中、協会はあらためて、「社会保障憲章草案」「社会保障基本法草案」で示した、社会保障としての医療保障制度の諸原則を貫き、協会の制度構想である「国の責任による全国一本の医療保障制度」注4を実現し、年齢や所得に関係なく、国の責任で、すべての人が必要な医療を必要なだけ受けることのできる制度を目指す取り組みを進める。
あわせて地方自治体に対しても、従来全国市長会・町村会等が求めて来た、「国の責任による制度一本化」と今回の「都道府県単位の一元化」は、その目的も方向性も全然違うものであることを伝え、共同して国の責任を追及する「波」を作り出したい。
【注】
注1 ただし、最終案には次のような表記もある。「地域の実情に応じ、自主的な判断によって地方自治法に基づく広域連合を活用することや市町村の事務の一部を都道府県が行うこととすることも考えられる」
注2 ただし、最終案に付された「基本資料」には次のような表記もある。「仮に、市町村において、都道府県が定めた標準(基準)保険料率より低い保険料率を決定する場合、標準(基準)保険料率を適用すれば徴収できた額との差額は、市町村が一般会計から補填する仕組みとすることが必要」。これは、後期高齢者医療制度では「広域連合」が保険料を賦課するのに対し、新制度ではあくまで市町村が保険者であるため、保険料賦課は市町村が条例に基づき行うこととなることによるものと考えられる。
注3 国民健康保険等広域化支援方針は10年5月に国会成立した「医療保険制度の安定的運営を図るための国保法等改正法案」に基づく計画で、都道府県が策定し、圏内市町村の国保広域化を目指す。11月1日現在、全国39都道府県が策定を予定。京都府も年内に計画を正式に取りまとめる模様。
注4 『高齢者医療と介護の将来像を提言する』(京都府保険医協会)