東北地方乗りのこしローカル線完乗の旅
日本ローカル鉄道の旅 その12
北小路博央(北)
国鉄時代、ローカル線のメッカは北海道であった。日本一の赤字線で有名な美幸線(美深〜仁宇布21.2?)、オホーツク海岸を走る興浜北線(浜頓別〜北見枝幸30.4?)、興浜南線(興部〜雄武19.9?)、天北線(音威子府〜南稚内148.9?)など鉄ちゃん流涎のローカル線を含めて30余線が廃線の憂き目にあった。タッチの差で廃線になった池北線、松前線、広尾線など未練を残して、北海道の現存ローカル線は昨年10月に完乗した。
日本ローカル鉄道完乗の野望達成まで残るは東北、甲信越、関東、九州の22線となった。平成24年4月、病躯に鞭打って東北地方完乗と北関東の一部に乗る旅に出ることにした。
第 1 日
一行は例によってつれあいの「鉄子さん」と乗り鉄の権化甥っ子のS君、好天を喜びながら、東海道・東北新幹線を乗り継いで一挙に盛岡まで突っ走る。新幹線のお陰でお金はかかるが東北、北海道、九州が半日コースになったのは嬉しい。
15時2分盛岡発大館行『花輪線』(2輌デイーゼル)に乗る。本シリーズその10で「日本海」運行中止のため乗り損ねたローカル線である。車窓に雪の岩木山、八幡平が雄姿を競っているなか、線路横の残雪が1mを越すのにびっくり、4月というのに雪をかきわけて走る山岳鉄道の風情である。十和田南駅は何故かつき当りの頭端駅で、ここで方向を変えるスイッチバックになる。本来はここから十和田湖畔を経て青森までつなぐという壮大な計画があったらしい(終着駅が頭端駅のローカル線は、どれもがどこかへつなぐ筈だったという悲運を背負っている)。大館の二つ手前の大滝温泉は鄙びた温泉で大きな旅館に宿泊客は我々3人だけであった。
第 2 日
大滝温泉→大館→秋田とロングシートを乗り継いで羽後本荘で『由利高原鉄道』(羽後本荘―矢島)第三セクターに乗りかえる。『鳥海山ろく線』の名にしては雨で鳥海山は見えず残念、数日前のお化け台風のせいか沿線の電柱が傾いているのにびっくり。23?・40分の車内は中々の雰囲気で、吊革に経営をバックアップする企業や個人名がはめこんである。往復キップに何故か「宇宙戦艦ヤマト」のイラストが…。終着駅矢島では『由利高原鉄道』の社長さんからお話をうかがうことができた。国鉄矢島線の頃は奥羽本線の院内駅につなげる予定であったが、矢島町の有力者から「矢島を通過駅にすることは許さん」と反対されて挫折したとの話。社長さんも「理解し難いことです」とのたまった。「PRにつとめているが、中々TV局がとり上げてくれない」とお嘆き、「宇宙戦艦ヤマトより秋田美人のアテンダントさんを前に出して宣伝されたら…」と勝手なアドバイスをしてお別れした。
この夜は酒田駅前のビジネスホテルで一泊。
残雪の由利高原鉄道 清楚な秋田美人の風情
第 3 日
3日ぶりの好天で車窓に島海山が美しい。酒田→余目→新庄と最上川と月山の雪景色を愛でながら山形へ。ここからローカル線左沢線フルーツラインに乗る。車窓はサクランボ畑一色だが、車中は都市近郊線そのもの。
山形に戻って赤湯まで山形新幹線を利用する。30?・20分余に730円の特急券は痛いが、この間をつなぐ普通列車が極端に少ないのだ。(新庄―福島間はミニ新幹線で在来線も1435?の線路を共有して走っている)JRさんのもうけどころか。
赤湯から第三セクター山形鉄道(フラワー長井線)に乗る。かつて“スウィングガールズ"という映画の舞台になった鉄道で車体の派手なガールズのデザインにびっくり。山形鉄道は三セクでありながら途中2?程はJR米坂線と線路を共有している。
この夜は磐梯熱海温泉に一泊、妙にもの静かな黒いジャージの男達の集団が同宿で「何の団体ですか」ときいたら小さな声で「A県警です…」
山形鉄道のスウィングガールズ
第 4 日
郡山から最後の東北未乗ローカル線磐越東線(郡山―いわき85.6?)に乗って「いわき」へ、この辺りは東北大震災の爪あとが痛々しい。水戸線下館駅から『真岡鉄道』(下館―茂木41.9?、三セク)に乗る。真岡鉄道の車輌はド派手な市松模様のデザイン、ホームの桜が満開、沿線にはすばらしい桜並木のトンネルがあって思わぬ花見が楽しめた。茂木駅からチャーターしておいたタクシーで峠道を走り抜けること30分、この旅最後のローカル線JR『烏山線』(烏山―宝積寺22.4?)は下校の高校生で満員。完璧な都市近郊線である。この線も烏山―常陸大子(水郡線)を結ぶ予定であった由。現存するローカル盲腸線はほとんどが予定途絶線で、国鉄の壮大な落し物なのだ。
東北ローカル線完乗3線2鉄道に加えて北関東1線1鉄道を踏破、例によって小忙しい旅を終え、乗り残したローカル線は15、全線完乗はいよいよ目前となった。乞う、ご期待。
ド派手な市松模様の真岡鉄道
烏山線のシンボルは七福神