本の紹介『10年後、あなたは病気になると家を失う』
日本の医療の根本的問題と改革方向
この本は「国民健康保険、後期高齢者医療制度、アメリカの医療モデル、現在の医師不足、病院を取り巻く問題、日本の医療費は高くない」の6章で成り立っている。
日本の医療制度は(1)皆保険、(2)現物給付、(3)フリーアクセスの原則のもと「誰もが、どこでも、安心して良い医療」を受けられる制度として維持されてきた。
日本は健康達成度、健康寿命、平均寿命、乳児死亡率で国際的な高い評価を受けている。少ない医師数、看護師数、医療従事者数の献身的熱意でこの医療水準を保ってきたが、80年代「医療費亡国論」のもと医療費総枠の抑制、医師誘発需要論が幅を利かせ、医療費抑制路線が推し進められ、現在の深刻な医療情勢がもたらされているといえよう。
本来、財政的に脆弱な国保に対し、国庫支出金が減らされ、それを補う形で市町村の一般会計からの繰入金の増加により自治体の負担が増加した。それによる国保保険料の値上げは低所得者世帯を直撃した。療養給付費交付金を拠出する健保組合は後期高齢者への負担増により、収支の悪化を招き健保組合の解散をまねいている。
国が責務を負うべき社会保障制度が「自己責任」「保険主義」という名のもと劣化し、資格証、混合診療導入など当然受けられるべき医療の機会が失われようとしている。また後期高齢者医療制度はさらなる医療費抑制のシステムとなっている。財政健全化法により自治体への統制、それに医師不足が加わり、各地の公立病院が閉鎖・縮小され、中核病院の機能を失い、それがドミノ倒しのように近隣の病院にも波及している。産科、小児科、救急医療をはじめとする現在の地域医療崩壊の原因なのである。
本書では厚生労働省が今まで発表してきた「医療費予想」の過大さに加えて、「国民負担率」「高い老人医療費」の数字のまやかしも指摘する。
社会保障費、ことに医療の充実による「経済波及効果」は国民に健康と安心を与え、有効需要や雇用機会の創出により経済社会の発展を支える重要なものという厚生労働白書を引き、社会保障費は投資として捉えても、他の業種に遜色のない効果を提供すると結んでいる。
本書を通読することで、今の日本の医療が置かれている根本的な問題と、将来への改革方向を理解できるものとなっている。
(理事長・関 浩)
『10年後、あなたは病気になると家を失う―国民皆保険崩壊の真実―』(日本経済新聞出版社)津田光夫、馬場淳、三浦清春、寺尾正之 著1,785円、会員価格1,500円で取扱い