谷口 謙(北丹)

数少ない仕事で思い切れないトラブルがあった
翌日 半日ベッドで過した
夜八時過ぎ 安定剤を二こ飲んだ
痔疾の座薬を使い就寝した
眠れた
快適な眠りだった
午前五時四十二分丹後大宮駅発西舞鶴行きの
一番列車の音
そのときたしかに聞いた
「先生」
女の声だった
誰もいない
家妻は階下 ぼくは二階で眠っている
誰の声だったか
どうしても思い出せない
長かった仕事の患者さん 職員たち
誰の声でもない
誰かぼくのことを思い出していてくれる
愚かなことだ
だけどぼくは嬉しかった
雨が降っている朝

【京都保険医新聞第2672・2673号_2009年1月5・12日_4面】

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