新連載 医師が選んだ医事紛争事例(1)  PDF

新連載 医師が選んだ医事紛争事例(1)

ヘルペスの治療に不満で理性を失った患者

(50歳代後半女性)

〈事故の概要と経過〉

 40年来の患者で、ヘルペスに対して抗ウイルス剤とプレドニンによる治療を行い症状は軽快していた。その後に両手、両足に皮疹が再度発症してヘルペスの再発と診断し、抗ウイルス剤の投与を開始した。内服から点滴に切り替え7日間様子を見たが、改善は著明ではなく小康状態であった。そこでプレドニンの投薬を開始し、一定期間をおいて半量に減量したが、症状が改善されないので他疾患による皮疹を疑ったが、もう少し経過を見ることにして投薬を継続した。患者からプレドニンを増量して使用したところ、少し改善したので増量して欲しいとの要望があり、プレドニンを増量し投薬を続けた。他疾患による皮疹の可能性を考えて、他医への紹介転科を勧めようとしていたとき、患者から薬疹を疑っているとして、別のA医療機関皮膚科へ受診するとの申し出があった。A医療機関受診後、患者は早朝、深夜、診療時間中を問わず電話での抗議、誹謗中傷、恫喝に近い言葉を発し、あるいは来院して他の患者に不信感を抱かせる行為を繰り返し行った。更に面談の際、医師やその家族にお茶をかけ、患者宅に医師家族を連れ込む等の行為を行った。この対応策として医療機関は、弁護士を通じ調停を申し立てた。

 患者側からは、3カ月前の元の身体の状態に戻し、今後出てくる副作用についての補償を主張し、賠償の一部として数十万円を要求して、医療機関側はその要求を了承して金銭を支払った経緯があった。

 医療機関側としては、患者の希望によりプレドニンを増量し、投薬した判断にミスがあったのではないかと考えた。なお、患者本人や家族とは冷静に話し合える状況になく、弁護士を通じて医療機関の見解を伝えてもらうしか方法がないと判断した。

 紛争発生から解決まで約5年8カ月間要した。

〈問題点〉

 ヘルペスの診断の下にステロイド、抗ウイルス剤の投与および点滴について、症状は軽快しており問題はない。その後、ヘルペスの再発としてステロイド、抗ウイルス剤を変えながら症状の経過を診ることについても過誤は認められない。投薬の経過から薬疹とは考えられず、投薬にミスがあったとは考えられない。患者からの申し出によりプレドニンを増量し投薬した判断に、医療機関側としてはミスがあったのではないかと疑ったが、これによって重大な副作用が生じたこともなく、患者はA医療機関受診後、症状は治癒し異常は認められていない。従ってヘルペスの治療として何ら医療過誤はないと判断された。なお、医療機関は患者の要求に対し、調査結果を待たず数十万円の金銭を支払ったことは、事後対応として問題であった。やはり客観的な調査を終えてから、金銭的対応をしなければ、結果的に脅し取られた形となってしまう場合もある。当然ながら、そのような場合に医師賠償責任保険は適用とならない。

〈解決方法〉

 調査の結果、医療機関側に過失がないと判断され、医療機関側も納得してその旨を伝えたところ、患者側からのクレームが途絶えて久しくなったため、立ち消え解決と見做された。

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