新理事随筆・忘れ得ぬ症例 大切な思い出  PDF

新理事随筆・忘れ得ぬ症例 大切な思い出

保険部会 藤田祝子(下京西部)

 先般の読売新聞の「編集手帳」の欄を読んで、まさに私の今の気持ちを表していると思いましたので引用させていただきます。

 「子供時代のことを詩に書いて発表する。そうすると思い出を売りに出したような気持ちになる。〈自分も風景も、みんな厚化粧した見世物になってしまうんだ。〉寺山修司『田園に死す』の一節である」。これは18年前に神戸市で起きた連続児童殺傷事件で当時14歳だった加害男性が、手記『絶歌』を出版したことに対する記者の想いです。「書くことで自分を治療したかったと、切羽詰まった執筆の動機を語っている。その言葉に偽りはなくとも、遺族の胸には亡きわが子を見世物にされたような痛みが残ろう」と書かれています。

 保険医協会のことが何もわからず新任理事として初めて参加した理事会で、「忘れ得ぬ症例」のお題をいただきました。なかなか原稿に取りかかれずにいたのですが、この新聞の記事で自分でも納得がいきました。

 私は1992年に医師になりました。何でもしたいし、何でもできるようになってきたと自信があふれていた研修医、大学院生の若かった時代、その後開業して多くの患者さんと関わりました。その間、医療だけでなく、一人の人間として多くを勉強させていただきました。

 人は忘れられない思い出というと、楽しかったことより、辛く傷ついたことや悲しかったことの方が心に残っているのではないでしょうか。私にとって、このお題をもらって思いつくことはいくつかあります。それらを思い出すと、心が痛くなり泣きそうになります。それらが私を成長させてくれたことは確かです。

 しかし、多くの方が目を通されるこの紙面に、私の大切な思い出話を語ることはできません。先に書いた私の気持ちをお察し下さい。

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