新専門医制度の崩壊  PDF

新専門医制度の崩壊

 2014年5月に創設された「日本専門医機構」によって進められてきた「新専門医制度」は、当初から、さまざまな懸念が寄せられていました。結果として、専攻医登録開始寸前になっての6月7日、続いて14日の厚生労働大臣談話、見解「立ち止まっての精査を」、加えて、15日の日本医師会、日本医学会からの各学会への「保留要請」によって、事実上崩壊したのだと、私は理解しています。

 新専門医制度は構想の当初から、実現性に問題がありました。

1、医師偏在

 新制度では、若手医師は「基幹病院と連携施設(大病院)」に集中することは明白です。連携施設の認定を受けられない中小病院は、たちまち医師不足になります。この問題は地方、僻地だけのことではありません。京都のような都市部でも同じです。現実に中小病院は地域医療に大きな役割を果たしています。中小病院の医療に果たす役割は大学病院よりはるかに大きいものです。

 新制度は、地域医療、国民医療の崩壊をもたらすことになります。

2、研修の在り方

 中小病院は、救急を含めて、さまざまな患者について、医療の第一線を勉強できる場です。また、中小病院は、患者と医師の距離が近いので、ただ、病気を勉強できるだけでなく、患者の生活環境・経済環境をも勉強できる、また、勉強しなければならないという状況があります。若手医師が社会性をもった医師として育つためには忘れてはならない重要なことです。

3、研修医の待遇問題

 経営団体、経営方針、経営状況がさまざまな基幹病院と連携施設が、一定の待遇(給与)を研修医に保証できるとは限りません。専門医機構は、この問題をほとんど検討していないことは信じられないことです。

 若手医師とて、皆が皆、富裕階級の子弟であるとは限りません。医師になって、当初は比較的待遇のよい中小病院に勤めてから、改めての研修のために給与の低い大学病院・大病院へ移ることは、今まで行われてきたことです。

 新制度は、この路を閉ざすことになります。私の大学病院時代、地方の中小病院で勤務したのち30歳を過ぎてから、呼吸器科研修のために入局し、数年間の鍛錬ののち、現在、各地で呼吸器科の現場で活躍している先生方が、今、思い出しただけでも12人以上います。

 医師の生涯研修は自己研修で行うべきことです。全く不十分な体制を若手医師に強制することは、納得できる話ではありません。

◇  ◇

 厚生労働省、日本専門医機構が描く専門医制度は、北欧のような医療公営(病院と診療所の明確な機能区分)、医師・医療関係者の公的養成の行われている国でなければ実現できる話ではありません。なお、北欧では、臨床医を目指す若手医師は、専門医への道を歩み、大学院・学位を目指すことはないことを加記しておきたいと思います。専門医制度を考える前に、日本の医療制度の根幹をめぐって国民的議論の必要な課題が多数山積していることを強く指摘しておきたいと思います。

(中京東部・泉 孝英)

ページの先頭へ