新専門医制度 国の狙いは医師制度の改革
医師数管理とゲートオープナー・成長戦略の担い手育成か
協会は10月26日、第3回開業医フォーラムを開催。「新専門医制度」実施に向け、9月には京都でも一般社団法人日本専門医機構が主催する地域説明会が開催され、各基幹研修施設での基本領域研修プログラム策定や、研修施設群の設定準備が進められている。新たな専門医の仕組みは、「国民の視点」に立ち、信頼される医師の質保証を目指して、プロフェッショナル・オートノミーで構築される。しかし国は、こうした医療サイドの動きとは全く違う位相で、「新専門制度」を医療制度改革に位置づけている。「新専門医制度」を国はどのように活用しようとしているのか。(HPにて動画配信予定)
「新専門医制度」は医師統制の仕組みに
吉中理事は「『新専門医制度』が国民皆保険の構造改革に使われようとしている」と題して講演。
「安倍政権の医療制度改革は、日本の医療制度を経済成長に総動員するために、保険制度改革で給付抑制を行い、医療提供体制を再編しようとするものである。この提供体制改革の次の矢が『新専門医制度』ではないか」と問題提起し、実のところ、「自律(プロフェッショナルオートノミー)」を目指す医療サイドの思いとは裏腹に、国は「新専門医制度」を、医師を統制下に置くための仕組みに使おうとしていると指摘した。
「病床機能分化」と「専門医のあり方」
続けて、国のねらいを次のように分析。「新専門医制度」は提供体制改革に組み込まれる。この間、国は「病床機能分化」と「専門医のあり方」を一体的な問題と位置付けてきた。効率的な入院医療と、その結果必要となる地域包括ケア体制の構築をうたう一方での専門医定数を用いた医師数管理、在宅で患者を受け止める新たな専門医育成、更には成長戦略を担う高度専門医の育成である。現在、策定作業が進む地域医療構想に用いられる「医療需要推計」も、病床数だけでなく必要医師数の算出に利用される可能性が高く、新専門医制度の19基本領域の一つに位置づけられた総合診療専門医は、地域包括ケアを支える「総合的な診療のできる医師」という役割と、患者のファーストコンタクトを受け持つゲートオープナーとして想定されている。
国が従来と違う医師像目指す理由は
財務省が「かかりつけ医以外にかかった場合の定額負担の導入」を提案する等、国は窓口一部負担金を使って患者のファーストコンタクトを「かかりつけ医」へ誘導しようとしている。しかしこれは、医師・患者双方の階層化を生む。「かかりつけ医」の診療報酬は「包括点数」も予想される。現在のところ、「かかりつけ医」=「総合診療専門医」と明示はされていないが、その可能性は否定できない。
予想されるキャリアパスでは、総合診療専門医は後期研修(新専門医研修)3年を経たらすぐに開業する道も想定され、現在の一般的な開業医への道とは大きく変化していく。この医師に国が求めるのはトリアージ機能と介護・福祉サービスの利用まで視野に入れた、その場で完結する総合的な医療の提供である。
今必要なのは臨床研修制度全体の見直し
以上をまとめ、「新専門医制度」が構造改革策として機能したら、どのようなことが起こるかについて、次のように整理した。(1)専門科別の医師数コントロール(2)複数科にまたがって患者を診る総合診療専門医を養成し、開業医の絶対数を削減(3)総合診療専門医に患者受診コントロールを担わせ「無駄な」医療へのアクセスを制限(4)開業医を家庭医療クリニック、高度専門クリニックに分断(5)家庭医療クリニックへの包括報酬導入で「保険で良い医療」を目指す保険医運動の弱体化—。
講演の最後に吉中理事は、「新専門医制度」で、医療の現場で本当に必要とされている専門性を備えた医師を育てることができるのか。まして、国がこの仕組みを構造改革や成長戦略に用いることは論外。むしろ今必要なのは臨床研修制度全体の見直しだと述べ、「初期臨床研修のスーパーローテートの重視」「後期研修(専攻医研修)を国費で財源保障し、軍産官学から自由な仕組みで行う」「総合診療専門医をより高次なsubspecialtyに位置づける」ことなどを提起した。
意見交換では、高度急性期、急性期を担う大病院では、時間をかけて診断する能力が奪われるのではないか。地域では高齢になった医師が、専門医を更新できず退場させられる等、危惧される事態の指摘が相次いだ。