政策解説 自治体の医療費抑制主体化狙う「国保都道府県化」医療者・自治体の共同運動が鍵  PDF

政策解説 自治体の医療費抑制主体化狙う「国保都道府県化」医療者・自治体の共同運動が鍵

通常国会の開会

 1月26日に開会した第189通常国会は、昨年末の突然の解散・総選挙での「勝利」を経た安倍政権が、さらなる軍事大国化路線と構造改革(新自由主義改革)の推進をはかる場となりそうだ。集団的自衛権行使容認の解釈改憲を決定した閣議決定の具体化策としての自衛隊法・武力攻撃事態法・周辺事態法の改定が、最大の政治課題になる。一方で、「世界でいちばん企業が活動しやすい国」を目指す新成長戦略推進の条件整備を進め、様々な生活部面にわたって構造改革路線に基づく制度改定に取り組む。

国保都道府県化をはかる法案の登場

 医療分野では「市町村国保の都道府県化」をめざす医療保険制度改革法案(「持続可能な医療保険制度等を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案(仮称)」)が最重要法案である。
 同法案は、社会保障制度改革プログラム法(持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律・2013年12月)が既定路線とした医療・介護制度改革の一環であり、新段階となる。地域の医療・介護サービス提供体制改革を目指して、先に国会成立した「医療・介護総合確保法」(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律・2014年6月成立)に続くものである。

提供体制改革と国保都道府県化

 今回の医療保険制度改革関連法案の中心は「市町村国保の都道府県化」である。市町村国保は国民皆保険体制の基盤だが、国はその都道府県化をめざす動きを何度も繰り返してきた。
 02年12月、厚生労働省の医療制度改革推進本部は「『医療保険制度の体系の在り方』『診療報酬の見直し』について(厚生労働省試案)」で、「都道府県を軸として、保険者を再編・統合することが望ましい」と打ち出した。その根拠として示されたのが、(1)保険者として安定的な運営ができる規模が必要であること(2)各都道府県においては医療計画が策定されていること(3)医療サービスはおおむね都道府県の中で提供されている実態があること—だった。このうち(2)と(3)が、「提供体制」に着目していることに注意が必要である。同報告書は「保険者・医療機関・地方公共団体などの関係者が、都道府県単位で連携して地域の住民に対し質の高い効率的な医療を提供できるよう取り組む」こと、「医療の地域特性に起因して生ずる医療費の地域差部分については、地域における適正化努力を促すような仕組みを導入する」と述べた。また、「保険者による取組」として「再編された保険者は、レセプト点検等の取組を更に強化」との表記もある。周知のとおり、すべてが試案どおりに進んだわけではない。一方、都道府県単位の後期高齢者医療制度創設や協会けんぽの再編、医療費適正化計画の策定義務化、医療計画の見直しなどが小泉医療制度構造改革で実際に行われたのである。
 医療計画で提供体制を管理してきた都道府県に医療費も管理させ、医療費抑制を目指させる仕組みづくりは、医療構造改革の中核的方針であり、今回の国保都道府県化もそうしたプロセスに位置付けられているのである。

骨子に示された医療保険の姿

 2015年1月13日に公表された医療保険制度改革骨子に書かれた医療保険制度の姿を概観しておきたい。
 「骨子」の冒頭に掲げられているのは、「国民健康保険の安定化」である。これは、今回の国保見直しに向けた「国と地方の協議」(国保基盤協議会)においても、都道府県知事会等地方自治体サイドが要求してきた「国保構造問題」への対応である。国保の「構造問題」とは、(1)低所得者が多い(2)年齢構成が高いことなどにより医療費水準が高い(3)所得に占める保険料が重い—など、制度設計上抱えている問題を指している。それによって生じる具体的な問題としては、小規模保険者は高額な給付の発生で財政危機に陥りやすい、(国庫負担が引き下げられ続けてきたため)市町村が一般会計から繰入(法定外繰入)を行わなければ保険料が高額になるといった状況を指す。
 自治体サイドは構造問題解決には抜本的な財政基盤強化が必要である、すなわち、公費の増額が必要と訴えてきた。「骨子」に示された財政措置は、これに対する国の回答である。
 「骨子」は2015年度から一体改革以来の約束である低所得者支援を目的とした公費約1700億円(保険者支援制度の拡充)を投入することを明記。さらには17年度時点で約1700億円の追加投入も行い、総額3400億円を新たな追加公費として明らかにした。単純計算では、例えばこの金額は12年度の単年度赤字を相殺し得る規模である。一方で、国は追加公費の使途として医療費適正化に向けた取組支援や、財政安定化基金創設らを打ち出した。これについて知事会は「まだまだ不十分」、日本医師会は「賛成」を表明、追加公費1700億円の財源捻出が後期高齢者支援金の「全面総報酬制」によって負担増となる健保連側は反対を表明している。

都道府県化した国保の具体的枠組み

 さて、「骨子」は、国の追加公費を持参金に、都道府県へ国保の責任を担わせる。「2018年度から、都道府県が財政運営の責任主体」となり、国保運営の中心を担わせる。都道府県は、「医療費の見込みを立て、市町村ごとの分賦金の額を決定」する。つまり、各市町村が都道府県に納めるべき金額をあらかじめ提示する仕組みの導入である。分賦金の額は「市町村ごとの医療費水準及び所得水準を反映する」といい、先行の都道府県単位の保険である後期高齢者医療制度とは違い、全市町村に統一保険料を課す仕組みは採用しない模様だ。市町村は分賦金に見合う金額を被保険者から徴収すべく、保険料率を定め、賦課・徴収の役割を担う。都道府県が「標準保険料率」を設定する方針も書かれてはいるが、直ちにそれを強制するものではない様子である。市町村は保険料徴収の他、引き続き資格管理・保険給付の決定、保健事業を担う。

医療費適正化計画の見直し—「適正化目標」と保険者機能強化

 以上を見る限り、一見すると何ら現状の国保と変わらないものになる可能性が高い。
 だからこそ、都道府県が財政を握る仕組みへの転換にこめられた狙いの中心が、医療・介護総合確保法による提供体制改革と一体なものであること、もっといえば、国保の都道府県化と提供体制改革が結合してこそ、国の望む医療費抑制の仕組みは一応の出来上がりとなることを確認しておかねばならない。
 骨子は「医療費適正化計画の見直し」に次のように書く。「都道府県が、医療機能の分化・連携、地域包括ケアシステムの構築を図るために策定される地域医療構想と整合的な目標(医療費の水準、医療費の効率的な提供の推進)を計画の中に設定し、国においてこの設定に必要な指標等を定めるものとする」。
 全国知事会が批判する「目標化」について書かれたこの一文こそ、今回の改革の心臓部分である。提供体制改革と国保の財政責任を負わされた都道府県に、医療費支出の抑制目標を課せば、都道府県の医療政策は「いかに保障するか」から「いかに抑えるか」へと変質し、医療費抑制主体化する。医療費適正化計画の見直しこそが、経済財政諮問会議が「骨太の方針2014」で提起した医療費総額管理システムの重要な一歩なのである。
 さらに、都道府県化した国保には財政安定化基金創設が予定されていることにも注視が必要だ。これは実際にかかった医療費に対する国庫支出という現在の考え方が転換されることを意味する。
 先行する介護保険・後期高齢者医療制度での「財政安定化基金」は、見込みを超える給付費の増、また保険料収納不足で保険財政の赤字が出る場合、一般財源等から新たに追加の財政補填をする必要のないよう、市町村に対して資金の交付・貸付を行うものである。貸付の場合、次の事業運営期間の保険料に償還のための上乗せがなされる。給付増の責任を被保険者に課す仕組みなのであり、これを創設することはイコール国保の財政構造をはかり、介護保険・後期高齢者医療制度型に切り替えることだと考えられる。

より具体化する制度改革の中で

 「骨子」はこれ以外にも、(1)被用者保険の後期高齢者支援金の全面総報酬制の段階的導入(2)後期高齢者医療制度の「保険料軽減特例」(最大9割)の見直し(3)被用者保険の保険料負担上限額を現行の121万円から139万円に引き上げ(4)入院時の食事負担について、食材費相当額に加え、調理費相当額も自己負担を求める(5)所得の高い国保組合の国庫補助を段階的に見直す(6)紹介状なしで大病院を受診する場合等に原則として定額負担を患者に求める(7)保険外併用療養費制度に「患者申出療養(仮称)」を創設する—といった多岐にわたるメニューが盛り込まれている。
 以上のように「骨子」公表により、医療制度改革の姿は一層具体的にみえてきた。協会は現在取り組んでいる「混合診療拡大阻止」を目指す患者・会員署名を強化すると同時に、今回の国保改革の本当の問題点を明らかにしながら、国に対し、医療費抑制政策の転換を迫っていく。

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