政策解説 第3期医療費適正化計画基本方針にみる医療改革の今日  PDF

政策解説 第3期医療費適正化計画基本方針にみる医療改革の今日

 厚生労働省は3月24日、2018年度からの都道府県の策定する「第3期医療費適正化計画基本方針案」を提示した。同方針は現在進行中の第2期計画(〜17年度)からの全部改正であり、16年度中に公布される。

 ただし、外来・入院医療費にかかる具体的な「医療費目標の算定式」は今夏に追加され、再び改正予定という。

医療費適正化計画の変更点

 医療費適正化計画は、高齢者の医療の確保に関する法律を根拠法とする法定計画。かつて小泉内閣が06年に成立させた医療制度構造改革の一環で、都道府県単位の医療費抑制システムの中核的な仕組みである。全都道府県が「国民の健康の保持の推進」と「医療の効率的な提供の推進」に関する目標を設定し、PDCAサイクルで進めるよう求め、「国民皆保険を堅持し続けていくため」「国民の生活の質の維持及び向上を確保しつつ、今後医療に要する費用が過度に増大しない」※1ことを目指す。

 同計画は安倍政権期に入った15年の医療保険制度改革関連法(持続可能な医療保険制度を構築するための国民健康保険法等の一部を改正する法律案)で次のように改正された。

(1)計画期間は6年に

 従来は5年を1期とし、都道府県の策定する保健医療計画と計画期間が揃えられていたが、保健医療計画に新たに地域医療構想を盛り込ことが義務づけられ、各市町村の介護保険事業計画と密接に関連した施策展開が求められることとなった。介護保険事業計画並びに都道府県の介護保険事業支援計画は3年を1期としており、整合を図りやすいよう、保健医療計画ともども計画期間を6年に変更した。これで3計画はすべて18年度からスタートする(図1)。

(2) 「医療費目標」を定める

 第2期までの「医療費の見通し」を「病床機能の分化および連携の推進の成果を踏まえた『医療に要する費用の見込み(医療費目標)』」を定めるよう見直された。目標化については、全国知事会も「緊急要請」(15年1月9日)で批判した経過がある。

(3) 要因分析や対策実施を強化

 都道府県は「地域医療構想に基づく医療提供体制の整備」「医療保険者の取組の進捗状況管理」を担う。

 なお、18年を待たずとも地域医療構想の策定時期によっては先行実施も可能とされ、今回、基本方針が早々に示されることとなった。 

入院は地域医療構想 外来は「地域差」を使って「適正化」

 新たな基本方針(案)は、「医療費の適正化の取組」について、大きく「外来医療費」と「入院医療費」に分けて示している。

 外来医療費は2段階に分けられる。

 第1段階は、第3期計画終年度である23年に向け、(1)特定健診・特定保健指導実施率(健診70%以上、保健指導45%以上)と(2)後発医薬品の使用割合(80%以上)の全国目標の達成である。この達成による医療費縮減額を反映した外来医療費の目標を設定させる。

 第2段階は、その上でもなお残る「1人当たり医療費の地域差」(図2)について、様々な取組を通じて縮減させる。取組として掲げられているのは、「民間事業者も活用したデータヘルスの推進」「ヘルスケアポイント(図3)※2の実施等健康づくりへのインセンティブ対策の強化」「重複投薬の是正」等である。

 入院医療費については、「病床機能の分化及び連携の推進の成果等を踏まえる」とあり、医療費目標の算定式は夏をめどに告示する。

 第2期までの「取組」は、特定健診等とあわせて「平均在院日数短縮」がその柱だった※3が、今回の基本方針にその文言はない。厚生労働省は「医療費の見込みを、病床機能分化・連携、地域包括ケアシステムの構築が推進されることによる医療の提供体制を踏まえた医療費の水準とすることを考えており、現時点では平均在院日数の短縮を取組目標とすることは考えていない」と説明している。これは、都道府県の策定する地域医療構想に基づく病床再編等を進めることでの医療費に対する財政効果を見込むことを意味する。次のような文言もある「入院医療費については、適正化の取組を行う前の医療費に、病床機能の分化及び連携の推進の成果等を踏まえる」※4。つまり平均在院日数短縮の前提である病床機能の分化および連携は、「目標」に向けた取組みでなく「前提」であり、スタートラインのような扱いと読み取れる。

 さらに「地域差」も重要なキーワードとなっている。国は地域差の「見える化」を推進し、「各都道府県の疾病別医療費の地域差」「後発医薬品の使用促進の地域差」「重複・多剤投薬の地域差」等を都道府県に提供するという。

「診療報酬の特例」に注視

 都道府県を中心とした医療費抑制の推進は、国にとって小泉構造改革以降の一貫した方針だが、地域医療構想策定や「医師需給推計」(1面)の登場によって実効性が高まる形となっている。加えて、実効性の観点から注意が必要なのは「都道府県ごとの特例診療報酬」の存在である。高齢者の医療の確保に関する法律第14条(診療報酬の特例)は、「厚生労働大臣は」医療費適正化計画の目標を達成し、「医療費適正化を推進するために必要があると認めるとき」「他の都道府県の区域内における診療報酬と異なる定めをすることができる」と定めている。医療費適正化計画の結果、たとえば推計を著しく上回った場合には、他の都道府県と違う「特例」診療報酬が認められているのだ。

 但し、この条項は未だかつて発動されたことはない。だが、気になる動きはある。

 塩崎恭久厚生労働大臣はメディファクス誌のインタビューで「(将来的には)そういう時代がくる可能性はあると思う」と述べ、その上で「その前にやるべきこともたくさんある」と語っている(16年1月7日)。これは、15年6月の提言書「保健医療2035」が医療費適正化手段の強化のため、「診療報酬の一部を都道府県が主体的に決定する」ことを提言したことを受けた発言だった。

 また、政府の「経済・財政再生計画 改革工程表」にも「高齢者医療確保法第14条の診療報酬の特例の活用方策について、関係審議会等において検討し、結論。検討の結果に基づいて必要な措置を講ずる」と明記されている。

 医療費適正化の目標達成を目指し、そのためなら「一物二価」を戒めた歴史的所産である全国一律の診療報酬制度さえも否定し、自由開業医制否定・医師数コントロールにも踏み切る。いかなる聖域も認めない。医療制度構造改革の本性がいよいよあからさまに見えてきた。

 先に述べた3計画のスタートする年、医療保険制度も大きな転機を迎える。国民皆保険制度の基礎をなす市町村国保が都道府県化される。都道府県が提供体制と保険財政を担い、その結び目に医療費適正化計画は位置することになる。

 都道府県を軸に進む医療大転換に対して、協会は皆保険の意義を訴え、私たちとその先人が築いてきた医療の在り方を守り、発展させる運動を患者さんとともにすすめていく。

〈出典〉

図1 第94回社会保障審議会医療保険部会「医療費適正化基本方針案の概要について」(2016.3.24)

図2 社会保障制度改革推進本部第6回医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会

図3 保険者及び個人の予防・健康づくり等のインセンティブについて 厚生労働省保険局

〈脚注〉

※1 『高齢者の医療の確保に関する法律の解説』(土佐和男編著、法研刊)

※2 保険者が予防・健康づくりに取り組む加入者に対してヘルスケアポイントを付与し、健康グッズ等と交換できるようにする等の取組。既に一部の健保組合や市町村で、保健事業として実施されている。

※3 小泉医療制度構造改革で医療費適正化計画が導入された際、都道府県医療計画には「四疾病五事業」(後に五疾病五事業及び在宅医療)の医療連携体制を書き込むことが義務化されたが、それも効率的な連携体制を構築させ、その成果を在院日数短縮に反映させ、結果医療費を適正化する方策だった。

※4 「医療費適正化基本方針案の概要について」(2016年3月24日厚生労働省保険局)

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