改訂版 医療安全対策の常識と工夫(41)
トラブルの気配?チェック(3)「手技」
こんなことになったのは、何か医者が失敗したからに違いない、そうでなければうまくいった筈だとか、あの医者はずいぶん若く見えるが未熟だったのではないか、などと患者さん側からクレームを付けられることも、あり得ることと思います。患者さん側からすれば、最高の医療を受けることを常に希望し、またそれが(無意識にも)当然だと思っている節も見受けられます。
この「手技」に関しては医療水準が常に問題となります。我々も調査を進める中で、この医療水準の判断に悩まされることがしばしばです。ここで医療機関側に注意していただきたいのは、医療水準は決して医師個人の経験則では計れないということです。これはベテラン医師や専門医であっても同様です。逆に彼等を基準にすれば、当然、水準は高くなり医療過誤は増加することになるでしょう。患者さん側としては、あるいはそれが望ましいことなのかも知れませんが、現時点でこれは萎縮医療を助長させるのみで、結局は患者さんのためにならない結果を招くことになります。2008年頃から頻繁に報道され始めた「医療崩壊」が、その一例としてあげられるかも知れません。
重要なことは、一般の医師としての手技が、その問題となっているケースに対してどう判断されるかです。もちろん、ここでいう「一般の医師」の手技を判断することは容易ではありません。また、数としては少ないでしょうが、場合によっては専門医の持つ手技が過誤を判断する医療水準に当てはまることもあり得ます。何れにせよ、可能な限り客観性を持たせることがポイントとなることに違いはありません。そのためには面倒と思われることもあるかも知れませんが、極力、文献等を検索することをお勧めします。何度も繰り返しますが、紛争発生直後には、結果のみで、また、個人的判断のみでの結論を患者さん側に伝えないことが、紛争を拡大させない大きな要因となるのです。
次回は、チェック(4)「説明」についてお話しします。